長野県北佐久郡に位置し、浅間山麓の豊かな自然を抱く御代田町。そこで、新しい写真の祭典、「浅間国際フォトフェスティバル」が9月14日に開幕した。
このフェスティバルは、御代田町と、写真雑誌『IMA』など様々なビジュアルコミュニケーション事業を展開する株式会社アマナが合同で開催するもの。「五感を刺激する写真体験」をコンセプトにしたフェスティバルでは、室内だけでなく、自然に恵まれた屋外でも写真の展示を楽しめる。従来の美術館のような建物の壁面に掲げられた平面の写真だけでなく、写真の立体展示を体験することもできるのも特徴だ。
フェスティバルは、3会場に分かれており、メイン会場となるのは、アマナが旧メルシャン軽井沢美術館をリニューアルした「御代田写真美術館」とその周辺エリアだ。そこでは、国内外の写真家による、39箇所の展示、700点を超えた作品を展示している。
「TRANSFORM イメージの化学」をテーマにした今回の展示では、変わりゆくものや、人々の交流から生まれる化学反応を示す写真家たちの試みを紹介。写真史におけるパイオニアとも言えるアンナ・アトキンスが1853年に発表したサイアノタイプの作品から、畑直幸や小林健太らが今年に制作した新作まで、時代を超えた幅広いジャンルの写真作品が並ぶ。
展示は、エドワード・マイブリッジが1887年に発表したシリーズ「Animal Locomotion」(1887)から始まる。「馬の4本足が疾走するとき、地面に何本がついているのか?」という問いを答えるため、マイブリッジは12台の写真装置を使い、疾走する馬の連続写真を撮影した。本作について、エキシビションディレクター、『IMA』の編集長・太田睦子は、「写真の黎明期のものであり、姿が変わっていくという『トランスフォーム』の一番わかりやすく、象徴的な写真です」と語っている。
会場の中心部にある展示棟では、アーティストデュオの「Nerhol(ネルホル)」が、同じ被写体を連続撮影した数百枚の写真を、彫ることで歪みが現れる巨大なポートレート写真を展示。フランスの写真家シャルル・フレジェは、世界各地の先住民の写真を撮影し、文化人類学や民族学の視点を示す作品群を精力的に発表してきた。展示棟内では、フレジェによる鮮やかで自由な造形美を持つ写真作品を立体のインスタレーションのかたちで紹介している。
LOUNGE棟では、アトキンスやロバート・メイプルソープ、カール・ブロスフェルト、サナ・レート、濱田祐史、グレゴリー・エディ・ジョーンズらが「花」をモチーフにした作品を、植物とともに展示。植物園のような空間で、美術史における永続的なモチーフとも言える花を、様々な時代の写真家が独自の手法で表現した作品を体験してほしい。
浅間山を眺められる散策エリアでは、報道写真家として活躍していたウィージーの写真《Coney Island》(1940)をもとにした巨大なインスタレーションが存在感を放つ。無数の人がビーチを埋めつくしている場面を記録した本作の表面には、いくつかの穴が空いており、鑑賞者はなかに入り、ウィージーの写真の一員になることが体験できる。
作品点数がもっとも多い美術館棟では、横田大輔が空のフィルムを50〜100枚ほど重ねて熱現像した《Color Photographs》(2015)や、インカ&二クラスが自然風景を独自の演出で、超現実的な手法で表現した6つのシリーズ、奈良原一高が北海道・当別のトラピスト男子修道院で撮影した「沈黙の園」シリーズ(1958)と、3年間ヨーロッパに滞在したとき、道中をドラマティックに撮影した「ヨーロッパ 静止した時間」シリーズ(1962-64)、そして森山大道の女装セルフポートレート《LABYRINTH》(2012)など、様々な変容=トランスフォームを見せた作品を集結している。
そのほか、アーティストデュオ「POSTURING(ポスチャリング)」が現代のファッション写真における身体表現の革命に注目し、新しい「審美的な奇妙さ」を提唱する写真インスタレーションや、フランスの写真コレクター、トーマス・ソヴァンが中国で収集した1960年代の写真をソファに変形させた《Great Leaps Forward》(1960-2019)、ビザの規制で外国への旅行が困難なキム・カンヒがPhotoshopを使って、自分が想像した光景をコラージュした「Street Errands」シリーズ(2019)なども、美術館の敷地内を散策しながら、鑑賞することができる。
また、サブ会場となるルオムの森や浅間火山博物館、軽井沢プリンスホテルでは、チャーリー・エングマン、平澤賢治、シャンタル・レンズ、ルーク・ステファンソン、田原桂一らの作品を豊かな自然のなかで体験できる。なお、会期中に行われる写真のワークショップやトークイベントもあわせてチェックしてほしい。