2019.9.4

約99万人を動員してきた展覧会の最終地。「篠山紀信展 写真力」がGallery AaMo(ギャラリー アーモ)で開催

2012年の熊本市現代美術館を皮切りに、全国32会場を巡回してきた「篠山紀信展 写真力 THE PEOPLE by KISHIN」。7年間で累計約99万人を動員してきた同展の最終回が「篠山紀信展 写真力 THE PEOPLE by KISHIN The Last Show」として東京・水道橋のGallery AaMo(ギャラリー アーモ)で開幕した。

篠山紀信と《山口百恵》(1977)
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 「写真と空間がバトルする会場に足を運び、この場を体感してほしい。写真と向かい合う感覚は、実際に会場に体を置かないとわからないものだと思います」。写真家の篠山紀信は、9月5日から10月27日にかけ東京・水道橋のGallery AaMo(ギャラリー アーモ)で行われる個展「篠山紀信展 写真力 THE PEOPLE by KISHIN The Last Show」についてそう話す。

 2012年、熊本市現代美術館の展示を皮切りに始まった「篠山紀信展 写真力 THE PEOPLE by KISHIN」はこれまでに全国32会場を巡回し、約99万人を動員。会場ごとに少しずつ展示内容を変え、7年間にわたり新陳代謝を繰り返してきた。そして今回、東京ドームシティー内のGallery AaMo(ギャラリー アーモ)の展示をもって幕を閉じる。

 篠山は1940年東京都生まれ。日本大学芸術学部写真学科在学中より頭角を現し、広告制作会社「ライトパブリシティ」で活躍。日本広告写真家協会展公募部門APA賞(1961)を受賞し、68年にフリーに転身し、現在までに作品を撮り続けてきた。

 本展は、そうした篠山の活動の一端を「GOD」「STAR」「SPECTACLE」「BODY」「ACCIDENTS」の5章で紹介する。

会場風景より、「GOD」の部屋。左から《三島由紀夫》(1968)、《三島由紀夫》(1968)
会場風景より、「GOD」の部屋。手前が《樹木希林》(2018)

 まず来場者を迎えるのは、すでに亡くなった歌手、俳優、作家、芸術家らの在りし日の姿を収めたポートレイトが集まる「GOD」だ。ここでは、三島由紀夫が、自衛隊市ヶ谷駐屯地(現・防衛省本省)で割腹自殺をする約1週間前に撮影されたポートレイトなども大々的に展示される。篠山は、写真家は往々にして「時の死」の立会人だと言う。

会場風景より、「STAR」の部屋
会場風景より、「STAR」の部屋

 続く「STAR」では、誰もが知るであろう有名人たちが、「時の人」として乱反射するかのようなまばゆい輝きを見せる。虚像を暴くのではなく、あくまでスターがスターとして輝く瞬間をとらえた写真たち。77年に山中湖で撮影された山口百恵のアイコニックな写真について篠山は、「色っぽい表情だけど、百恵さんはたんに疲れていたのかもしれない(笑)。このとき、写真の神様が降りてきました気がします」と冗談を交えながら振り返る。

会場風景より、《後藤久美子》(1988)
会場風景より、「BODY」の部屋。手前が《大相撲》(1995)

 篠山の代名詞のひとつといえば、「パノラマ」と「篠山」からなる造語「シノラマ」だろう。大型カメラを旋回させて複数のシャッターを切り、1枚の写真をつくりだすこの手法によって撮影された歌舞伎役者、力士、刺青の男たちの写真が並ぶ「SPECTACLE」では、会場でももっとも迫力のあるスペースだ。「『シノラマ』は、80年代の東京を撮影するために生み出した手法なんです。平面的で少し不気味な違和感があるでしょう。これは、時空間を解体しているからなんです」。

会場風景より、「BODY」の部屋

 いっぽう、そうした被写体の肉体に迫るのが、「BODY」だ。初期の構成的なヌードから70年代の「激写」シリーズ、社会現象にまでなった宮沢りえの写真集『Santa Fe』などで、時代のヌード表現を切り開いてきた篠山。ダンサーやアスリートを含め、多様なヌード写真が並ぶ。

会場風景より、「ACCIDENTS」の部屋。手前が《阿部未子(62)阿部俊一(64)亘理町》(2011)

 「時代と並走するというのは、じつはとても大変なこと。時代と向き合い続けなければならないからです」。そう話す篠山が「なかったことにはできなかった」と振り返るのが、2011年の東日本大震災だ。「ACCIDENTS」の部屋で展示されるのは、いわゆるドキュメンタリー写真からは距離をとってきた篠山が、被災地のありのままをとらえようとした写真。いっさいの演出も指示もなく撮影されたモノクロの写真からは、悲しみ、怒り、沈痛のさまが伝わってくる。

 「この展覧会の出品作で一番印象的だった被写体は誰ですか?」との問いに、「次に撮影する人が自分にとっては一番のモデルです」と答えた篠山。半世紀以上のキャリアがあり、本展が大回顧展でありながらも、時代・写真に真摯に向き合う篠山の次の作品が楽しみになる展覧会だ。

会場風景より、《草間彌生》(2004)