2019年、新たに3件の国宝と41件の重要文化財が指定された。日本全国の寺院や美術館などが所蔵するこれらの美術品・資料を一堂に見ることができるのが、東京国立博物館で始まった「2019年新指定国宝・重要文化財」展だ。
まずは国宝から見ていこう。今回、絵画の部では《キトラ古墳壁画》(飛鳥時代)の1件が、彫刻の部では《木造五智如来坐像》(奈良時代)と唐招提寺が所蔵する6体の木造立像(重要文化財を統合して国宝指定)の2件が新指定された。
本展では、国宝・木造五智如来坐像からは大日如来坐像、阿弥陀如来坐像、そして不空成就如来坐像の3体が展示されている。
この《木造五智如来坐像》は、五智如来坐像としては東アジア最古であり、《大日如来坐像》は大日如来の彫像としては現存最古。初期密教彫刻の最重要作例のひとつだ。重厚で単純化された造形は当時の密教彫刻の特徴を表したもので、華やかな台座を含めて、制作当時のままの姿を残している。
いっぽう唐招提寺所蔵の木造立像6体からは、《木造薬師如来立像》と《木造伝獅子吼菩薩立像》の2体を展示。
これらの木彫像は榧(かや)の一木造りでつくられており、厚みがあり、がっしりしているのが特徴。鑑真とともに日本にやって来た工人が直接又は間接的に制作に関わっているとみられ、水の波紋のような衣の襞は中央アジア風の表現だという。日本の木彫像の起点となる重要作例であるとされている。
重要文化財の展示は絵画、彫刻、工芸品、書跡・典籍、古文書、考古資料、歴史資料の7分野からなり、絵画の部では熊斐(ゆうひ)筆による《絹本着色鯉魚跳龍門図》(江戸時代)や《紙本金地著色唐獅子図》(桃山時代)などを展示。
《絹本着色鯉魚跳龍門図》を描いた熊斐は、唐絵趣味の起点となった絵師であり、本作はその代表作。その緻密な描写は、後世の伊藤若冲や葛飾北斎などにつながるという。いまもその描き方がわかっていないという鯉の描写に注目してほしい。
工芸品の部からは、鈴木長吉作の銅置物《十二の鷹》に目を凝らしたい。その名の通り、12羽の鷹からなる本作は、明治時代、シカゴ万博に出品されたもので、鈴木長吉の作品としては2件目の重文指定。真鍮の上から彫金し、羽根や表情を彫り表しており、高度な金工技術が見て取れる。
また考古資料の部では、兵庫県池田古墳出土品が目を引く。渡り鳥をかたどった、愛らしい埴輪の数々。池田古墳は水鳥型埴輪の出土数が日本一の古墳であり、24体以上出土したという。モチーフとなっているのは鴨や雁、白鳥など。渡り鳥は魂を運ぶ動物であったと考えられている。
歴史資料の部では全7件のうち、アイヌと琉球に関連する資料がそれぞれ2件ずつ新指定された。秦檍麿(はたのあわきまろ)筆の《蝦夷島奇観(えぞがしまきかん)》(江戸時代)は、アイヌの文化を絵と言葉で説明したもの。13帖全巻が自筆であり、数ある「蝦夷島奇観」(アイヌ風俗画)でもそのような事例はこれが唯一だという。
なお今回の新指定により、重要文化財と国宝を合わせた数は絵画が2031件、彫刻が2715件、工芸品が2469件、書跡・典籍が1916件、古文書が774件、考古資料が647件、歴史資料が220件で合計1万772件となった。