2019.1.22

「平成の終わりに」。
10組のアーティストが共演する「DOMANI・明日展」が国立新美術館でスタート

文化庁による新進作家育成プログラムで在外研修した日本人作家を紹介する大規模なグループ展「DOMANI・明日展」。その第21回となる展覧会が、1月23日より国立新美術館で行われる。本展には、招待作家を含む10組が参加する。

川久保ジョイの展示室
前へ
次へ

 文化庁が若手芸術家を世界各国へと派遣するプログラム「新進芸術家海外研修制度」。その海外研修での成果を発表する場として、1998年から開催されてきた「DOMANI・明日展」が21回目の開催を迎えた。

 同展は、各作家を個展形式で紹介する大規模なグループ展。本年は「平成の終わりに」をテーマに、研修を終えて比較的時間が浅い作家たちが参加している。

 出品作家は、加藤翼、川久保ジョイ、木村悟之、志村信裕、白木麻子、蓮沼昌宏、松原慈、村山悟郎、和田的の9組。これに加え、招待作家として三瀬夏之介が加わった。

蓮沼昌宏の展示室
村山悟郎の展示室

 映像作品が目立つ今回の展示において、ここでは加藤翼と川久保ジョイに注目したい。

 移動と距離をテーマに、参加型プロジェクトを展開する加藤翼は、2015〜17年にかけてアメリカに派遣。近年、森美術館の「カタストロフと美術のちから」展やChim↑Pomによるプロジェクト「にんげんレストラン」への参加で注目を集めている。

 本展では、インドネシア、アメリカ、メキシコの3ヶ国で制作した作品を展示室に散りばめた。加藤は本展におけるステートメントの中で、その狙いを「各作品の出発地点(パフォーマンス・出来事・現場)から到着地点(ドキュメンテーション・美術館)までにまたがる距離へと、鑑賞者の眼差しをいざなうこと」と語っている。

加藤翼の展示室。手前は加藤翼《Woodstock 2017》(2017)

 加藤はこれまで、東日本大震災を契機に福島県いわき市で行った「11.3 Project」をはじめ、現地の人々を巻き込みながらある目的のために協働し、その様子を映像で収めるという手法で作品を制作してきた。展示室の奥に設置された《Pass Between Magnetic Tea Party》では、映像にも登場する巨大なテーブルが空間に突き刺さり、現地の残り香を伝える。ホワイトキューブ(こちら側)と、フィジカルな運動が実践される映像(あちら側)をつなごうとする試みは、果たしてどのように作用するのか。会場で確かめてほしい。

加藤翼の展示室。左は加藤翼《Pass Between magnetic Tea Party》(2015)の部分

 写真や言語など、多様なメディアで個人と歴史上の出来事を普遍的な問題へと媒介していく作品群を制作する川久保ジョイは、17〜18年にかけてイギリスに派遣。本展では、新作の映像を中心とした展示構成を見せる。

 東日本大震災以降、川久保は目には見えない放射線の存在を「写真」として見せることを試みたシリーズとして、「千の太陽の光が一時に天空に輝きを放ったならば」を制作してきた。同シリーズは、放射線量が2.3μSv/hの場所に写真フィルムを3ヶ月埋め、それをプリントした作品。本展ではこのシリーズより、最新作となる2点を発表している(加えて本展では同様の手法で34μSv/hの場所にフィルムを埋めてプリントした4点組の巨大作品《ホエン ザ ミステイクソフ ザ サンズ》[2013/14]も展示)。

川久保ジョイの展示室。左から《ホエン ザ ミステイクソフ ザ サンズ》(2013/14)、《千の太陽の光が一時に天空に輝きを放ったならば Ⅳ》(2019)、《永遠の六日後に(第一部)》(2019)

 いっぽう映像作品《永遠の六日後に(第一部)》(2019)は、川久保が2016年に資生堂ギャラリーで行った個展「Fall」で発表した《迷宮の神》(2016)をもとにしたものだ。《迷宮の神》は、アルゼンチンの作家ボルヘスの短編小説を再構築し、それをもとにつくられた映像作品であり、《永遠の六日後に(第一部)》もこれを踏襲しているように見える。しかし本作は全部で4部構成となっており、その全貌を把握することは難しい。森美術館で2月に開幕する「六本木クロッシング2019」で続編が展示されるので、そちらも併せて鑑賞したい。

 なお本展最後では、三瀬夏之介による巨大なインスタレーションが待ち構える。三瀬は日本画を手がけるアーティストとして、これまで「東北画は可能か?」プロジェクトなどを通して、「日本画」とは何かを問いかける活動を続けてきた。

 本展では、二つとない「富士山」を無数に描いた《日本の絵》(2006)が展示され、それと対峙するように、東日本大震災直後の避難指示区域を示す同心円を含んだ逆さまの日本列島《日本の絵》(2017)が浮かぶ。また会場中央にはいくつもの作品を暴力的につなげた《日本の絵 -執拗低音-》(2008-18)が、圧倒的な存在感で迫る。

 日本のアイデンティティとは何かを問うような三瀬の「日本の絵」は、「平成の終わりに」と題された本展の最後を飾るにふさわしい作品群だと言えるだろう。

三瀬夏之介の展示室。左から、《日本の絵 -執拗低音-》(2008-18)、《日本の絵》(2006)