2018.10.23

圧巻の唐招提寺御影堂障壁画に注目。生誕110年、東山魁夷の大回顧展が国立新美術館で開幕

戦後を代表する日本画家・東山魁夷。その生誕110年を記念する大規模回顧展が東京・六本木の国立新美術館で開幕した。東山芸術の集大成とも言われる《唐招提寺御影堂障壁画》をはじめ、約70点の作品が並ぶ本展の見どころとは?

会場風景より、唐招提寺御影堂障壁画《濤声》(1975)
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 1908年に生まれ、99年に没した戦後を代表する日本画家・東山魁夷。その生誕110年を記念する大規模回顧展が京都国立近代美術館での開催を経て、東京・六本木の国立新美術館に巡回、開幕した。魁夷の東京での回顧展は、2008年の東京国立近代美術館以来10年ぶりとなる。

 1933年に東京美術学校(現・東京藝術大学)研究科を修了後、ドイツに留学した東山は、太平洋戦争への応召や相次ぐ親族の死など、数多くの試練に見舞われるも、苦難のなかで風景の美しさを見出し、自然と向き合い続けた。

会場風景より、《秋翳》(1958)

 本展は、「国民的風景画家」「北欧を描く」「古都を描く・京都」「古都を描く・ドイツ、オーストリア」「唐招提寺御影堂障壁画」「心を写す風景画」の6章で構成される。約70点の作品を通し、40歳から約50年間にわたる画業をほぼ制作年順にたどるものだ。

 会田誠がその作品を引用したことで知られる《道》をはじめ、京都の四季を描いた「京洛四季」シリーズ、あるいは緑がかった林を横切る白馬とそれを映す水面を描いた《緑響く》など、誰もが一度は見たことがあるような代表作が並ぶ本展。

会場風景より、右は《道》(1950)

 しかし、今回の大きな見どころとなるのは、東山芸術の集大成といわれる奈良・唐招提寺御影堂の障壁画だ。

 この作品は、1970年に奈良・唐招提寺から依頼されたもので、《山雲》《濤声》《揚州薫風》《黄山暁雲》《桂林月宵》の5部からなる大作。襖絵と床の壁面は全68面におよび、すべてをつなげると全長83メートルにもなる。

会場風景より、唐招提寺御影堂障壁画《濤声》(1975)

 魁夷はこの作品を描く以前、風景画制作のために多くの日本の山や海を写生し、作品化してきた。しかし、障壁画に取りかかるために改めて日本中を取材。1975年~80年にかけ、すべての作品を奉納した。

 本作の大きな主題となっているのは、奈良時代に唐招提寺を開いた鑑真。鑑真は日本への渡航を5度失敗し、失明しながらも6度目の渡航で日本にたどり着いたことで広く知られている。本作のうち《山雲》《濤声》は、その鑑真が日本で見たかったであろう風景を魁夷が抽出して描いたものとなっている。

会場風景より、唐招提寺御影堂障壁画《山雲》(1975)
会場風景より、唐招提寺御影堂障壁画《濤声》(1975)

 また、《揚州薫風》は鑑真生誕の地・揚州の風景を、《桂林月宵》は鑑真が第5回目の渡航に失敗した際滞在した桂林の風景を、そして《黄山暁雲》は中国の景勝地を代表する黄山の風景をそれぞれ描いたもの。これらがひとつの展示室にまとまって展示される風景はまさに圧巻だ。

会場風景より、唐招提寺御影堂障壁画《揚州薫風》(1980)
会場風景より、唐招提寺御影堂障壁画《桂林月宵》(1980)
会場風景より、唐招提寺御影堂障壁画《黄山暁雲》(1980)

 完成までに10年の歳月をかけた東山芸術の集大成とも言えるこの作品は、唐招提寺御影堂の修理にともない、今後数年間は現地でも見ることができない。本展が貴重な機会となることは間違いないだろう。