東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTにて「AUDIO ARCHITECTURE:音のアーキテクチャ展」が開幕した。この展覧会はウェブデザイナー、インターフェースデザイナー、映像ディレクターとそれぞれの分野の第一線で活動している中村勇吾がディレクターを務め、展覧会の軸となる音楽をコーネリアス・小山田圭吾が担当。そして会場デザインをWonderwallの片山正通が手がけるという、各界第一線のメンバーが揃ってつくり出された展覧会だ。
展示室に入ると、コーネリアスによるスタジオライブの様子が3面に映し出されている。演奏しているのは、今回のために作られた新曲『AUDIO ARCHITECTURE』。歌詞は中村が手がけた。展示室内には歌詞も投影されており、歌詞の意味にあわせてその文字が変わるという趣向が凝らされている。
その音楽を聞きながら次の展示室に入ると、目に飛び込んでくるのは展示室の端から端まで繋がっているステージ上のモニターと、それに垂直状につながっている、ほぼ天井高の巨大なモニターだ。この巨大な二面のモニターに映し出されている映像が、『AUDIO ARCHITECTURE』の曲に連動して動いていることがわかる。
そしてその映像を見ながら巨大モニターの裏に進むと、8つのブースに分かれている。このブースそれぞれに今回参加したアーティストの映像が流れており、その映像が順番に表の巨大モニターに流れるという仕組みだ。もちろん全作品とも、コーネリアスの『AUDIO ARCHITECTURE』と完璧に連動している。大音量と大画面の映像のシンクロを楽しめるという展示だ。
今回参加しているアーティストは、コーネリアスのスタジオライブを手がけた稲垣哲朗のほか、梅田宏明、大西景太、折笠良、辻川幸一郎(GLASSLOFT)×バスキュール×北千住デザイン、勅使河原一雅、水尻自子、UCNV、ユーフラテスの9組。『AUDIO ARCHITECTURE』をそれぞれが聞いて解釈した映像を発表している。映像、アニメーション、ダンス、グラフィック、広告、イラストレーション、プログラミング、メディアデザインなどの領域で活動し、多彩な感性をもって新しい表現に取り組んできた作家たちだ。
それぞれが個性を活かした作品を発表しているなかでも、ユーフラテス(石川将也)+阿部舜と、辻川幸一郎(GLASSLOFT)×バスキュール×北千住デザインの2組の作品は鑑賞者が作品を手にとることや、体験することができる。
ユーフラテスの作品では、映像作品の前に2枚組の黒く、模様が白く抜かれたフィルムが4点並ぶ。このフィルムを動かすと、モアレのようなイメージが浮かび上がるという仕掛けだ。これは映像作品のなかでも実際に使用されたフィルム。実際に手にとって見ることで、単純な仕掛けから無限の表現が広がることがわかる。
ユニークなのは、辻川幸一郎(GLASSLOFT)×バスキュール×北千住デザインの作品だ。設置されているスマートフォンに顔写真を読み込ませると、音楽に合わせて自分の顔が様々なかたちに変化する。なお、表の大画面ではすでに撮影・編集された映像が流れており、ここで個人が撮影した顔は流れないようになっている。
本展開幕に開かれた記者発表にて、中村は「デザインには、空間を軸にしたデザインと、時間軸上のデザインがある。グラフィックデザインが前者で、音楽は後者です」と語った。「今回は後者を展覧会にしたくて、空間全体がひとつの音楽建築空間をつくるというフォーマットを考えました。このフォーマットを豊かに解釈してくれそうな人たちにお願いし、それぞれが再解釈してできあがった展覧会。一つひとつの作品と向き合うと同時に、空間自体を体験してほしいです」と挨拶。
音楽を担当した小山田は「勇吾さんとは展覧会で最近よくご一緒していますが、曲の歌詞を今回書いてもらって、初めて音楽のコラボレーションができました」と語り、本展の参加者たちで写真を撮影した際に「バンドみたいだなと思った」とコメント。
展示デザインを手がけた片山は「いままでに類を見ない企画。僕は黒子として、みなさんの『建築』ができる状況をつくろうと思いました」として、「それぞれの作家さんがつくる空間そのものをどうやって見せるかを考え、通常であれば作家に領域を与えて、その領域をデザインしますが、今回はそうしていません。会場はすべて、時間によって作家に支配されるような考え方にしています。部分と全体がつねに入り乱れて会場ができています」と、そのねらいを語った。
本展の「音楽建築空間」は、実際にその空間に来ないと体感できないもの。この唯一無二の空間に、ぜひ足を運んでほしい。