北欧発サーカス・シルクールによる『ニッティング・ピース』が全国5都市で上演へ。「平和を“編む”こと」の可能性を問う

北欧の現代サーカスカンパニー、サーカス・シルクールが6年ぶりに来日し、『ニッティング・ピース』を上演。11月9日の山口公演を皮切りに、岡山、東京、愛知、富山の5都市を巡回する。

(c)Karoline Henke

 北欧の現代サーカスカンパニー、サーカス・シルクールが6年ぶりに来日し、『ニッティング・ピース』を全国5都市で上演する。

 1995年に設立され、スウェーデンのストックホルムを拠点に活動するサーカス・シルクールは、「不可能を可能にする」というビジョンのもと、芸術性の高さと極限まで研ぎ澄まされた身体パフォーマンス、そこに込められた力強いメッセージで世界中を熱狂させてきた。設立当初より社会性の強いテーマを扱った作品を多く生み出しており、世田谷パブリックシアターでは、2018年に欧州難民危機をテーマとした『LIMITS/リミッツ』を上演。「境界を崩せ」という力強い想いを観客に伝えたという。

 今回の公演『ニッティング・ピース』は、2013年以来14ヶ国63都市で上演される人気作だ。争いの止まない世界において「平和を“編む”ことは可能だろうか?」という問いから平和への想いを込めて創作されており、白い糸やロープに埋め尽くされた幻想的な世界のなかで、5人のサーカスアーティストたちが、美しい音楽に導かれながら、エアリアルやシルホイール、玉乗り、綱渡りなどのサーカスパフォーマンスを展開。舞台に張り巡らされた糸とロープを操り、「手を取りあえば人にできないことはない」と証明するかのように、ダイナミックに、ときに詩的に、平和への道を紡ぎ出そうと挑む姿が描かれる。

(c)Karoline Henke
(c)Joana Magalhaes

 本公演について、演出・コンセプトを務めるサーカス・シルクール創設者ティルダ・ビョルフォシュは次のようにコメントしている。

『ニッティング・ピース』では、何キロメートルにもわたる糸を使用します。そのため、パフォーマンスの最中に糸がもつれたり、アーティストが引っかかったりする可能性が随所にあり、舞台スタッフとアーティストは、そのような予想外の事態に対応し複雑で危険な場面を回避する必要に迫られます。その瞬間の、息を呑むような心の揺れ。そんな経験を観客席に座る皆さんと共にしていると、こう思うのです。世界平和への歩みの中では、それが実現するかどうかではなく、ただ平和を希求し、行動し続けることが肝心なのだと。
(中略)
編み物は、サーカスアートのパフォーマンスとは異なります。しかし、平和のために編み物をすることは、サーカスと似ている。どちらも、不可能を可能にするために、身体と心を駆り出すのです。 

(プレスリリースより一部抜粋)

 また、日本における現代サーカスのパイオニアであり、一般社団法人瀬戸内サーカスファクトリー代表理事/現代サーカスディレクター・田中未知子は、サーカス・シルクールの魅力について「知的なクレイジーネス」と語り、その功績のひとつとして2005年にストックホルムのダンス大学にサーカス専攻が新設されたことを挙げる。そして、現代におけるサーカスのおもしろさについて、サーカス・シルクールの活動を通じて以下のようにコメントを寄せている。

サーカス・シルクールに抱き続けるイメージは「知的なクレイジーネス」だ。視覚的な美しさと、高いレベルのサーカス技術を担保しつつ、その裏で必ず、革新性へのあくなき探求があり、どこかにクレイジーネス(狂気)が垣間見える。
なぜクレイジーネスが必要か?ある意味ではそれがサーカスの本質だから。一線を超えるか否か、境界線を突き崩せるか、固定概念を覆せるか、身体的限界を超えられるか、…見る側からは「狂気」として感じられることがある。
同時に知的である、というのは、彼らはその“ギリギリ”の攻略を非常に客観的に、知性をもって行っていることが、創立からこれまで辿ってきた道のりが物語っているからだ。
(中略)
現代サーカスのどこを面白いと感じるかは、個々人、それぞれだと思うが、やはり「コンテンポラリー」といわれる芸術の中で、もっともインパクトがあり、自由度があるところではないだろうか。
(中略)
新しい、ということも重要だが、演劇や舞踊のように、長く発展していく芸術にしなければならない。そのために目指すものは、“技”ではなく、個性や独創性だ。
(中略)
まさに、シルクールが描いてきた世界も、独創性の追求の結果だと思うのだが、彼らのすごいところは、アーティスティックな探求を続けながら、同時に、アーティストやサーカス関係者が生きていける大きな仕組みづくりまで実現し続けていることだ。
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編集部

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