東京・虎ノ門に位置する菊池寛実記念 智美術館で、金属作家・畠山耕治の展覧会「畠山耕治―青銅を鋳る」が12月11日まで開催されている。
畠山は1956年富山県高岡市生まれ。青銅を素材とした鋳金(ちゅうきん)による作品を制作してきた。高岡市は江戸時代から400年余り続く鋳物(いもの)の産地であり、畠山は85年に同市に工房を設立し、現在も拠点にしている。鋳金とは、溶解した金属を型に流し込んで成形する技法で、その技法でつくられるものを鋳物と呼ぶ。
小さな装飾品から大仏までつくることができるこの鋳金の技法で、畠山は箱の形態をはじめとした造形作品から橋の親柱や建物の壁面、扉など建築分野にまで及ぶ幅広い制作を展開している。
畠山の作品の特徴はシンプルな造形と躍動する錆(さび)の表情。鋳金技法では型に合わせて複雑な形状をとることもできるが、「青銅の存在そのものを鋳込む」という自身の制作欲求を畠山はこのシンプルな造形と青銅を酸化させてつくる多彩な錆の色彩と質感でかたちにする。即興的で臨場感のある錆の表情が、抑制の効いた造形を鮮やかに彩る。
本展では、初期から新作まで70余点を中心に、日本ならではの金属加工技術を独自に革新させて鋳金の可能性を追求する畠山の制作を紹介する。
畠山の作品は、イギリスのヴィクトリア&アルバート博物館やフランスのパリ装飾芸術美術館など、多数の海外の美術館に収蔵されているが、その作品発表の場は日本に比べ金属器が身近なイギリスを中心としたヨーロッパが主だという。
たしかに美術館に限らず日本で金属工芸の作品を見る機会は少ない。まして現代の金属作家の個展を東京の美術館で開催するのは初めてだろう。本展は、現代の陶芸を専門に現役作家の制作を紹介してきた同館ならではの意欲的な企画といえる。
なお、同館では建築の一部としての畠山作品も見ることができる。展示室内の一部壁面や敷地入口の館銘板は、同館設立者の菊池智(とも/1923~2016)が依頼し、畠山によって制作されたもの。空間や景観までを視野に鋳金を制作する畠山の制作に向き合いたい。