金沢21世紀美術館の展示室が舞台になり、演劇作家の岡田利規と現代美術作家の金氏徹平がタッグを組んだ作品『消しゴム森』が、2020年2月7日〜16日に上演される。
本作は、岡田が作・演出、金氏がセノグラフィーを手がけるもの。2017年、岡田は東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県陸前高田市を訪れ、津波被害を防ぐ高台の造成工事という人工的につくりかえられた風景に触発。「人間的尺度」を疑うことから、作品の構想を始めた。
その結果が、2019年10月の「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」で上演された劇場版の『消しゴム山』と、今回金沢21世紀美術館で公開される『消しゴム森』だ。
岡田が主宰する演劇カンパニー・チェルフィッチュは、本作に「映像演劇」を取り入れている。「映像演劇」とは、舞台映像デザイナーの山田晋平とともに取り組み始めた新しい形式の演劇であり、映像・空間・鑑賞者の関係性を新たなレイヤーで提示する表現手法。鑑賞者はそれぞれの展示室に移動することで、現実とフィクションの間で揺れ動き、自身と作品やそこにある時間・空間との新しい関係性を発見する。
本作について岡田は、「ヒトが人間中心主義の外に出るためのパースペクティヴに少しでも感覚のレベルで触れ、接近するための手助けとなる」ものにしつらえたいとしており、モノとヒトとの主従関係とは異なる関わりの状態、またその状態へと変容していく様子を提示する場を設けるという。そして生みだされるのが、「ヒト(鑑賞者)に向けたヒト(俳優)による演劇、ヒト(鑑賞者)に向けたモノによる演劇、モノに向けたモノによる演劇、どこかに向けたモノによる演劇」だ。
いっぽう、コラージュを主な手法とし、空間における物体や人間の存在と関係に焦点を当てる金氏は、「人間とモノと空間と時間との新しい関係性」に挑戦したいとしている。「たくさんの時間とたくさんの人間の思惑によって出来上がった制度や空間をモノが占拠することによって、既存の境界線とは全く別のでたらめな境界線を引き台無しにする。……ある意味で想像することも不可能かもしれないことを、演劇(あるいはチェルフィッチュ)もしくは劇場、彫刻(あるいは金氏)もしくは美術館の制度や空間や手法やコンセプトを駆使して実現しようというのが今回の僕にとっての試みです」。
ふたりの試みが美術館の展示室でどのように展開されるのか? 注目したい。