アフリカ、アジア、オセアニア、南北アメリカ固有の文化・文明を集め、人々に発信するため2006年にオープンした、フランス・パリのケ・ブランリ美術館。緑豊かな庭園に囲まれたこの美術館で、日本の竹工芸を紹介する企画展「空(くう)を割く 日本の竹工芸」が2019年4月7日まで開催中だ。
自身も竹工芸作品のコレクターであるというケ・ブランリ美術館館長のステファン・マーティンが初めてキュレーションを行った本展。竹工芸作品のコレクターが多く存在する欧米のプライベートコレクション、パリのギャラリーから主に作品が集められているため、日本でもなかなか見る機会のない作品が並ぶと同時に、フランスでは初の大規模な竹工芸の展覧会でもある。
会場でまず目を引くのは、竹が素材の茶道具だ。中国の影響を受け始まった茶の文化を、初代山本竹龍斎、池田青龍斎、富岡鉄斎らの作品を通して紹介。「“民藝”によって、これまで様々な工芸品が見直されてきましたが、竹工芸はそんな歴史のなかでも見落とされてきたジャンルのひとつではないかと私は思っています」と、マーティンは話す。
また、田辺家、飯塚家といったいくつかの流派による代々の作品が、時代を超え並置された状態で見ることができるのもポイントだ。「私が日本の竹工芸の作家を興味深く感じるポイントのひとつに、巨匠と呼ばれるような作家でも、ひとつのスタイルにこだわらず様々なタイプの作品を手がけるという特徴があります。中国やヨーロッパの文化からの影響を柔軟に反映した作品を楽しんでほしい」とマーティンが話すように、同じ流派、同じ作家でも、その多彩なスタイルも感じ取ることができる。
本展でもっとも大きくフォーカスされている作家のひとりが、飯塚琅玕齋(いいづか・ろうかんさい、1890〜1958)だ。当初は画家を志し、中国の絵画、漢詩、書なども学んだ琅玕齋は、竹細工を芸術品に引き上げたと評価されている。「真行草」をコンセプトとするその作品は、竹に加え、ときにプラスチックなども作品に取り入れた斬新性や、抽象的で複雑な構造が特徴。「飯塚家の作品は個人的にも大変興味があります」と語るマーティンは、琅玕齋がつくり出す造形から、本展タイトル「空(くう)を割く」の着想を得たという。
また、本展には長倉健一、森上仁、米澤二郎、植松竹邑、杉浦功悦、四代田辺竹雲斎、本田聖流の7名の現代作家が参加。伝統を受け継ぐとともに、数学やテクノロジーとの融合により新たな竹工芸を模索する田辺、2016年にはアーティストの名和晃平とのコラボレーションを行った森上など、現代ならではのアプローチを行う作家も目立つ。なお、長倉は展覧会準備中に急逝。「本展は、長倉さんへの追悼の意味も込めています」とマーティンは話す。
本展ではそのほかにも、ときに作品を補完的に表現するために用いられたという箱や、琅玕齋が制作を行う貴重な映像、明治時代の資料、7名の現代作家のインタビュー映像や制作風景も上映されている。
竹工芸作品に対するマーティンの深い熱意が実現した本展を、パリで堪能してはいかがだろうか。