世紀末を経て芸術の爛熟期を迎えたウィーンで活動し、28年という短い生涯を駆け抜けた夭折の画家エゴン・シーレ(1890〜1918)。そのデスマスクが、ロンドンのオークションで競売にかけられる。
ウィーンにほど近いトゥルンで生まれたシーレは、15歳のとき、最大の理解者であった父が精神病を患い死去し、その喪失感を埋めるように自己肯定のために多くの絵を描き、最初の自画像集をまとめた。1906年に本格的に美術の門を叩き、16歳という若さでウィーンの美術アカデミーに入学。翌年には同じくウィーン世紀末美術を代表する存在であるグスタフ・クリムトと出会い、大きな影響を受けた。
しかしシーレは1909年、美術アカデミーの旧制度に反発して自主退学し、友人らと「新芸術家集団」を結成。ミートケ画廊で最初の展覧会を開催した後に集団を離れ、クリムトの装飾的で耽美な作風とは異なる独自の裸体画を模索していった。1915年にはエディット・ハルムスと結婚するも、まもなく徴兵。戦場へと赴いた。戦地から戻ったのちに多数の美術展に出品するも、18年にエディットがスペイン風邪で逝去。シーレもその2年後、28年という若さでこの世を去った。
今回、Sloane Street Auctionsのセールに出品されるデスマスクは、ウィーンの彫刻家グスティヌス・アンブロシによってつくられたもので、予想落札価格は1000〜2000ポンド(19.6万〜39万円)。同社のサイトによると、このマスクはシーレの死後2日目に制作されたもので、アンブロシはディナー・ジャケットを着ていたシーレの襟とネクタイをはずし、青空と陽光の下でデスマスクの型をとったという。デスマスクは計4枚生み出され、鋳型は母マリー・シーレに渡された。出品されるマスクはこれまで市場に出回ったことがなく、貴重なものだと言える。