今年11月、京都の国立京都国際会館イベントホールを会場に新しいアートフェアが誕生する。
「Art Collaboration Kyoto」(ACK)と題されたこのフェアは、京都府が主導して開催するもの。名前に「Collaboration」とあるように、行政と民間の協働、日本と海外のギャラリーの協働、美術とその他の領域の協働など、様々な「コラボレーション」をテーマに企画・運営を行うことがその大きな特徴だ。
近年、京都ではアーティストが主体となるアートフェア「ARTISTS' FAIR KYOTO」や、京都を活動の拠点とする新進鋭気の若手作家を紹介する展覧会「Kyoto Art for Tomorrow 2021 -京都府新鋭選抜展-」など、京都府主導のアートイベントが様々開催されている。いっぽう、京都には美術大学が多く存在するものの、現代美術のギャラリー(マーケット)は多くはない。
今回のアートフェアを京都で開催する理由について、プログラムディレクターを務める金島隆弘は、「京都を拠点にするアーティストが、京都を拠点に継続的に制作して生活できるような環境をつくりたい。マーケットを京都でいかにつくれるかが問われている」とし、文化庁の本格移転や京都府が目指す広範な文化政策もその背景にあると話している。
金島によると、上述の「京都府新鋭選抜展」はアーティストが顕彰される「ホップ」、「ARTISTS' FAIR KYOTO」はアーティストが市場にデビューしてコレクターに出会う「ステップ」の役割を果たしており、ACKはその次の「ジャンプ」として機能することが期待されているという。
「アーティストがギャラリーとの接点をつくったり、ギャラリーが京都の新しいアーティストを発見したりすること。また、海外のギャラリーが参加しているので、コロナ後は海外の人々が京都の作家と出会う機会にもなり、さらに海外や東京のギャラリーで展覧会が開かれる機会にもなる。ギャラリーを経由しながらアーティストが飛躍するジャンプの機会だ」(金島)。
コラボレーションによって生まれる相乗効果
今回のアートフェアは、「ギャラリーコラボレーション」と「キョウトミーティング」の2種類のセクションで構成。前者は、日本国内のギャラリーが「ホスト」となり、日本国外に本拠地のあるギャラリーを「ゲスト」として迎え、ブースを共有して出展するもの。後者は、京都ゆかりのアーティストを個展、または3名程度のグループ展の形式で紹介するものだ。
とくに前者はコロナ禍におけるアートフェアの可能性を示唆するもの。ギャラリー間のコラボレーションによってギャラリーのフェアへの出展負担の軽減が可能になるなど様々な効果が期待できるいっぽうで、ゲストギャラリーの来日が困難になっている現在、ホストギャラリーが作品を預かり展示することによって、ゲストギャラリーが国内のオーディエンスへアピールする機会も保証される。
こうしたギャラリー同士のコラボレーションだけでなく、行政と民間の協働もACKの大きな特徴のひとつ。行政と連動することによって事業がより公共的に広がっていくことも期待されている。
例えば、今回のACK実行委員会には京都の国際観光コンベンション事業の責任者も携わっており、コロナ前からオーバーツーリズムの状態となっていた京都の観光の質をアートで変えていくことや、京都の若手アーティストがより生活しやすくなるエコシステムの形成なども視野に入れる。
個性的な会場デザインと出展者ラインナップ
では実際のフェア会場はどうなるのだろうか。展示会場には、様々なサイズの展示ブースが一見ランダムに分散したかたちで配置。それぞれのブースの距離を離すことで、展示が干渉しあわないように配慮するという。
空間デザインを手がけるのは、SUO 一級建築士事務所の周防貴之。会場全体を一軒家が数多く建っている街と見立て、来場者は散策するようにブースをめぐることができる。
ACKはゲストギャラリーのラインナップも特徴的だ。国際的な巨大アートフェアに名を連ねるメガギャラリー中心ではなく、地域に根ざすギャラリーが多数並ぶ。
例えば、MISAKO & ROSENはサンパウロのギャラリー、フォルテス・ダアロイア&ガブリエルとコラボレーションし、両ギャラリーで取り扱っているエリカ・ヴェルズッティとティアゴ・カルネイロ・ダ・クンニャの2人のアーティストによる彫刻と絵画を紹介予定。ギャラリーの共同設立者・ローゼン美沙子はこのコラボレーションの意味について、「作品を売ることが全面に出ているよりは、文化的交流を強く印象づけるアートフェアのほうが日本のフェアには向いている」と語る。
充実したスペシャルプログラム
会期中には、宮島達男や金氏徹平、保坂健二朗、高橋龍太郎などのアーティスト、美術館館長、ギャラリーディレクター、コレクターなどをゲストに迎えたトークプログラムや、中堅アーティストや若手アーティストによる特別展示がオンラインまたは会場内で開催。加えて、京都府内の各所では現代アートから伝統工芸など多彩なサテライトプログラムも行われる。
2019年にニューヨークで開催されたアートフェア「Object & Thing」にインスパイアされて生まれた「OBJECT」は、アートとデザインの領域を超えた作品にフォーカスするもの。今年は「OBJECT -Object & Book 2021-」というタイトルで、ACKのサテライトプログラムのひとつとして京都岡崎 蔦屋書店で開催される。
韓国の若手アーティスト5人による彫刻、インスタレーションや、3Dプリンターなど新しいメディアを使って制作を行うアーティストやアーティストコレクティブの作品を出品しながら、初めてアートブックも展示されるという。OBJECT実行委員会代表で京都のギャラリー・FINCH ARTSの代表を務める櫻岡聡は、「多様なレイヤーや生態系を持った作家たちが集まるハブのようなイベントとして機能できれば」と期待を寄せている。
なお今年のACKは、オンラインでのアクセスを可能にするためのデジタルプラットフォームも開設予定。金島は、「実際に会場に来られない方も場所を探検しながら作品を見つけたり、ギャラリーに問い合わせしていただけるような導線を考えている」と語る。あえてオンラインでの購入ルートは設けず、リアルな場でのコミュニケーションを重視する姿勢だ。
コロナ禍の影響で世界中のアートフェアが新たな姿を模索するなか、様々な「コラボレーション」から生まれる「Art Collaboration Kyoto」はどのようなインパクトをもたらすのか。その開幕を待ちたい。