2017年1月20日、ドナルド・トランプ大統領が誕生した。翌日には、トランプ政権に反対する大規模デモが世界各地で行われ、全世界で約500万人が参加。アメリカ史上もっとも物議を醸した政権移行だったと言っても過言ではない。
ニューヨークのアート・コミュニティも、選挙戦の段階からトランプ氏の勢いを危惧していた。2016年11月選挙でのトランプの勝利以降のニューヨークは沈鬱ムードに包まれている。トランプ大統領の誕生のみならず、まったく予想できなかったアメリカの姿に、人々は大きくショックを受けているようだった。
このような状況のなか、チェルシーの大手ギャラリー、ペッツェル(Petzel)が、グループ展「We need to talk...」を緊急開催。「(現在のアメリカが置かれた状況について)私たちは話さなければいけない」というテーマのもと、政治色の強い内容となっている。
会場内にはアーティスト39名による、現在の政況に関連した作品47点が並ぶ。元来アメリカが抱えている根深い問題を反映した作品もあれば、トランプ政権の発足決定後に制作されたタイムリーな作品もあり、展示全体が「アメリカの今」を象徴しているようだ。
星条旗をモチーフにしたハンス・ハーケの《Stuff Happens》(2003)や《Mission Accomplished》(2005)、ロバート・ロンゴの《Untitled(Black Paper Flag)》(1999)といった、10年以上も前に制作された作品にもかかわらず、今日の問題に関連しているのが興味深い。一方で、AAブロンソンの真っ白の星条旗《White Flag #8》(2015)は「トランプの目指すアメリカ」を具体化しているように読み取れる。
また、来場者がメッセージを残せるようにノートが設置してある。一般からのビデオメッセージも受け付けており、届いた映像は会場内で放映される。会期中には「市民の自由」「移民」「環境」をテーマにしたシンポジウムも企画され、実際に人々が話し合う場が設けられている。
近年ニューヨークでは、作品が高額で扱われる有名アーティストを多く取り扱ういわゆる「ブルーチップギャラリー」が、真正面から政治をテーマにした展示を行うことは非常に少かった。そのなかで、あえて政治的なアートをテーマにした展覧会を企画したペッツェル。本展は「これ以上黙ってはいられない」という危機感と、「変化を起こそう」という意気込みがあふれた"攻め"の展示となっている。