国立新美術館がクラウドファンディングを実施。背景にある事情とは?

東京・六本木の国立新美術館が、来年3月からの「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」の開催費用の一部をクラウドファンディングで募集している。

記者発表会にて、左から長屋光枝(学芸課長)、逢坂恵理子(館長)、河北百合(総務課長)

 東京・六本木の国立新美術館が、来年3月より開催する展覧会「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」の開催費用の一部を募集する、クラウドファンディングを開始した。募集期間は2025年1月31日まで。目標金額は1000万円。

「READYFOR」の本プロジェクト支援ページ

 同館館長の逢坂恵理子は今回のクラウドファンディングを実施した理由を次のように述べた。「近年は輸送費や資材の高騰などの不安定な状況が美術館運営にも大きな影響をもたらしている。またメディア共催が難しくなり、自主企画展が増えつつある。しかしながら、国立新美術館ならではの意欲的な展覧会を運営することが大きな使命であることに変わりはなく、そのための支援を募りたいと考えた」。

 また、同館の総務課長である河北百合は、今回のクラウドファンディングの実施理由を次のように説明した。「国立新美術館の自主企画展は、国から給付される運営費や交付金に加え、入場料、グッズ/図録、助成金、協賛金といった資金を獲得して開催されている。しかし、展覧会ごとに様々なステークホルダーが関わっており、収支構造は複雑だ。また、昨今の光熱費や輸送費、資材費の高騰により開催にかかる費用も増加している。とくに日本最大規模となる展示スペースを持つ当館は、費用面でのインパクトが大きくなっている。しかし、この潤沢なスペースを有効利用した当館ならではの挑戦的な展示をこれからも実現していきたいと考え、支援を募ることにした」。

 本展は20世紀にはじまった住宅をめぐる革新的な試みを、衛生、素材、窓、キッチン、調度、メディア、ランドスケープといったモダン・ハウスを特徴づける7つの観点から再考するもの。

 記者発表会では、国からの助成や協賛、入場料といった通常の予算を超える規模で自主企画展を開催するためのクラウドファンディングについて疑問の声も上がったが、今回の支援はおもに「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」の目玉となる「ロー・ハウス」を原寸大再現展示のために使われるという。これは、ミース・ファン・デル・ローエが設計したものの、実際に建てられることのなかった未完のプロジェクト「ロー・ハウス」を、天井高8メートルの大空間を活かして再現するものだ。「ロー・ハウス」の再現展示エリアは観覧無料を予定しておりそのためにも支援金は重要だという。なお、本展は兵庫県立美術館への巡回(2025年9月20日〜)も予定しているが、この「ロー・ハウス」を再現する試みは国立新美術館独自のものになる。

リナ・ボ・バルディ ガラスの家 1951

 クラウドファンディングの支援の返礼品は5000円〜100万円までの計22コース。黒川紀章による同館建築をモチーフとした大型トートバッグ、ハンドタオル、リユースタンブラーなどがラインナップされている。また、来年度企画展の招待パスのほか、学芸課長の「展覧会ができるまで」についてのトーク、休館日の建築体験や自由撮影会、展覧会の特別レクチャーなども用意される。

クラウドファンディングの返礼品
クラウドファンディングの返礼品

編集部

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