東京・目黒の東京都庭園美術館で、東京都庭園美術館の邸宅そのものを読み解く展覧会「開館40周年記念 旧朝香宮邸を読み解く A to Z」が開幕した。会期は5月12日まで。
現東京都庭園美術館の旧朝香宮邸は1933年に竣工。アール・デコの様式をふんだんに取り入れ、竣工当時の姿をいまに伝えている。皇族・朝香宮家の邸宅の後は、外務大臣・首相の公邸や迎賓館として時代とともに役割を変え、1983年に美術館として開館した。
これまで、本邸宅に焦点を当てる展覧会はたびたび開催されてきたが、今回はできるだけ当時の意匠や細部までを詳細に解き明かしながら、本格的に旧朝香宮邸を読み解くものとなっている。
展覧会名のとおり、邸宅を読み解くキーワードがAからZまで設定されており、館内にはそのアルファベットを大きく示したパネルと解説シートが用意されている。来場者は各キーワードをたどるように解説シートを集めながら館内を巡ることで、旧朝香宮邸についての理解が深まるという趣向となる。
例えば、大広間のアルファベットは「U」だ。これは「Uneven Harmony(空間のリズム)」の頭文字で、直線的な図様やパターン、モチーフの繰り返しなど、広間のアール・デコ洋式の意匠に注目。電球やラジエーターカバー、木の柱のスリットなど、通常の展覧会では見逃してしまうような館内の特徴が解説されている。
また、壁紙や床面といった通常の展覧会中は見ることができなかった館の特徴も詳細に紹介されている。例えば小客室にあるアルファベット「B」の「Babbling of Water(水のせせらぎ)」は、この部屋の壁紙となっているアンリ・ラパンが描いた油彩画を詳しく紹介。建設当時、ロール状にして運ばれてきたというこの作品を、じっくり見られる機会となっている。
さらに、本展では通常は展示室として使用されていない、3階のウインターガーデンも公開。ここは「Deep Attachments and Good Eyes(愛着と目利き)」の「D」として、実際に使われていた当時の姿に思いを馳せている。
また、本展はゲストアーティストとして現代美術家の伊藤公象と須田悦弘が招聘され、ふたりの作品が邸宅内にさりげなく展示されているのも特徴となる。
長年にわたり土と壁に対峙しながら制作を続けてきた伊藤の作品は、夏場に涼を求めて家族で過ごしたという開放的な「北の間」に展示。寒色の涼し気なタイルの上に、伊藤の有機的な陶作品が並んだ。また、伊藤の作品はほかにも庭園や屋外に配置されている。
須田は木彫で植物を掘り、空間に紛れ込ませる作品を制作し続けてきており、本展に展示されているものも、意識して探さなければ見過ごしてしまうようなものばかりだ。タイルの隙間やガラス窓の向こうにさり気なく配置された須田の作品を、ぜひ見つけてみてほしい。
最後に、新館までたどり着いた来場者は「さいごにおさらい 朝香宮家の家づくり」で、本館でのAからZまでの展示を振り返る。新館の展示室中央には本館邸宅の間取り図を大きく立体化したものが配置されており、これまでたどってきた展示を俯瞰することができる仕組みだ。さらに「朝香宮邸をつくる」という観点で、この邸宅をつくるうえで存在した思考や趣向を学ぶことができる。
展示の終わりにはパンチと紐も用意されており、ここで、集めてきたAからZまでの解説シートをまとめることで、朝香宮邸での体験を持ち帰ることが可能となっている。
東京都庭園美術館に通い慣れた人も、そうでない人も、旧朝香宮邸という建物をもっと身近に、親しみをもって触れることができるようになる展覧会だ。