蜷川実花の「いま」と「これから」を示す新境地。東京都庭園美術館のアール・デコ建築と響き合う作品世界
写真家や映画監督として知られる蜷川実花による最新の植物の写真と映像作品を紹介する展覧会「蜷川実花 瞬く光の庭」が東京都庭園美術館で開催中。本展の見どころを担当学芸員および蜷川本人の言葉とともに紹介する。
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写真家や映画監督として幅広い分野で活動している蜷川実花。そのコロナ禍以降に制作された最新の植物の写真および映像作品と、東京都庭園美術館(本館は旧朝香宮邸)のアール・デコ様式の装飾が競演する展覧会「蜷川実花 瞬く光の庭」が開催されている。
本展の担当学芸員・田村麗恵(東京都庭園美術館 学芸員)は開幕前の記者会見で、「蜷川さんのようなすでに確立された世界観をお持ちの作家をお招きすることで、当館の特徴や持ち味に対して新しい可能性を開いてくださることを期待して今回の展覧会を企画した」としつつ、「この展覧会は私たちの期待をはるかに上回る素晴らしい展覧会となった」と高く評価している。
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本館では、蜷川が昨年の春から今年の春にかけて、東京都庭園美術館の庭園を含む日本国内各地で撮影した4万点以上の写真のなかから厳選された約80点を展示。作品は2021年春〜22年春の季節順に配列されており、四季の移ろいを感じとることができる。いっぽうの新館では、写真と同時期に撮影された映像インスタレーション《胡蝶のめぐる季節》や、蜷川の制作風景を収録したインタビュー映像が展開されている。
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田村は、本展は同館の室内装飾や環境をそのまま生かすかたちでの展示だと語る。例えば、本館の南側に面した多くの部屋では、窓からの庭園の借景が邸宅の設計における中心のコンセプトのひとつとなっており、窓というフレームのなかに植物の写真を展示することで、外光のなかで光にあふれた写真が見られる重層的な構成となっている。
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2階のベランダでは、窓全体を使って作品が展示されており、蜷川の、いわば「桃源郷」のような空間となっている。「妃殿下居間」の部屋では、今年1月に東京に大雪が降った日の翌朝に庭園美術館の庭園で撮影された写真が飾られており、窓の外には被写体となった松の木を見ることができる。
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鮮烈な色調の「極彩色」で表現した作品で知られている蜷川だが、本展で展示された写真と映像作品は、光に包まれた植物が明るくて柔らかな「光彩色」という色調でとらえられている。田村は、「『光彩色』で彩られて希望にあふれた作品世界と、繊細かつダイナミックで没入感が非常に高い映像インスタレーションは、蜷川さんの『いま』と『これから』を示す新機軸だ。この展覧会は新しい蜷川さんの作品世界を存分にご覧いただけるものと確信している」と話す。
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本展でもうひとつ特筆すべきことは、蜷川が撮影する植物の多くは、あるがままの自然のなかにあるものではなく、庭園や公園など人の意志のなかで育まれた花や木々であるということだ。
その意図について、蜷川は「美術手帖」の取材に対して次のように語っている。「誰かが誰かを思ってつくったり、誰かがつくったものを誰かが受けとったりすることに興味がある。また、植物だけではなく、いろいろなものは移ろいやすく、手に入れたと思った瞬間からすでに零れ落ちるようなことがたくさんあるので、いま起きている現実や目の前にあることを大切に思ってその美しさを掴みたいし、写真に残したい」。
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また、コロナ禍以降の自身の制作について蜷川はこう振り返る。「これまでの制作においては、主語が『私』というのが多くあって、そこに集中して誠実でいることが見てくれる人たちに伝わると信じてやってきた。そういう思いはいまもあるが、もうすこし見てくれる人に開いていて、主語が『私』から『私たち』に移り変わってきている。それがたくさんの人たちに伝わったらいいなという思いの重さが変わったかもしれない」。
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昨年まで全国10ヶ所の美術館を巡回した「蜷川実花展-虚構と現実の間に-」を経て、コロナ禍以降に「次の一歩が踏めた」という蜷川。東京都庭園美術館のアール・デコ様式の室内装飾や庭園とともに、その新境地を目撃してほしい。
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