アートフェア東京は、1992年にパシフィコ横浜で始まったアジア初の現代美術に特化したアートフェア「Nippon International Contemporary Art Fair (NICAF)」(2003年の第8回で終了)を前身に、05年に始まった古美術・工芸から、日本画・近代美術・現代アートまでが展示される総合的なアートフェア。これまで辛美沙や金島隆弘などがディレクターを務めてきたが、前回より体制が大幅に見直され、一般社団法人アート東京とテレビ東京・BSジャパンが共同開催、テレビ局出身の來住尚彦がエグゼクティブ・プロデューサーを務めている。
今回のフェアは、例年同様、古美術・工芸などを中心に扱うギャラリーが集まる「ノースウィング」と、現代美術のギャラリーを中心とした「サウスウィング」で構成される「ギャラリーエリア」に加え、「東京ガールズコレクション 2017 SPRING/SUMMER」とのコラボレーションや、ホールへの入り口となるフロアに「ロビーギャラリー」を設けるなどの試みが見られた。
しかしながら、かつて見られた企画性の強い展示(2015年には琳派をテーマにした企画展「琳派はポップ/ポップは琳派」が行われた)は影を潜めている。大型の作品は少なく、フェア全体を通じて小振りな作品が並ぶ「目玉不在」の印象。そんななかでも、目立っていたのがASAKUSAや青山目黒×ぎゃらり壼中天など、独自の毛色を出したブースだ。
浅草に拠点を置くASAKUSAは、ブースに暗幕で覆われたテントを設置。そのなかでヨシュア・オコン、ポーリン・ボードリ / レナーテ・ロレンツ、ヤコルビ・サッタ―ホワイトの映像作品3点を上映するという異色の展示。映像作品はすべて人種や性的嗜好による差別に言及するもので、「見世物小屋」に象徴されるマイノリティーの存在を、フェアという商業的な場で(隠しながら)見せるという挑発的なものだった。ブースでは「文化的生産と促進における重要な舞台である本会場で、批判的な想像力を通して政治的公正に挑戦する以下の作品をご紹介いたします」(抜粋)という文言が掲げてあり、ギャラリーのアートフェアに対する明確な態度が感じられる。
また、青山目黒×ぎゃらり壼中天は、昭和を生きた写真家・羽永光利をフィーチャー。1960〜70年代を中心に、劇団や前衛芸術、学生運動など様々な現場を記録し続けた羽永の写真を、3つの壁面を覆い尽くすように展開させている。激動の時代を映したモノクロ写真の数々が、現場に介入する羽永のごとく、フェア会場の一角で強い存在感を示していた。
このほか、12ギャラリーが各1組の作家を個展形式で紹介する「PROJECTS」では、KEN NAKAHSHIのエリック・スワース、HARMAS GALLERYの高橋大輔など、若手アーティストをこの機会に積極的に紹介しようという意志が感じられる。
古美術から現代美術まで、様々なものが一堂に集まるのがアートフェア東京の特色。しかし、アート・バーゼル香港をはじめとするアジアのアートフェアが存在感を高めるなか、それ以外にこのフェアを特徴づけるものを期待したい。