2016年にロエベ ファンデーションが設立した「ロエベ ファンデーション クラフト プライズ」。その第4回の大賞が発表された。
同プライズは「ロエベ」のクリエイティブ・ディレクターであるジョナサン・アンダーソンが考案したもので、今日の文化におけるクラフトの重要性を認識し、顕彰することを目的としたプライズ。16年以降着実に回数を重ね、国際的なクラフトプライズとしての存在感を高めてきた。
30名のファイナリストから選出された今年の「ロエベ ファンデーション クラフト プライズ」の大賞は、1989年中国生まれのリン・ファングルによる《SHE》(2016)だ。リン・ファングルは中国少数民族の薄れゆく伝統や習俗を救済することに熱意を持つデザイナーで、ドイツと日本で教育を受けた背景を持つ。2016年には北京の中国建築装飾協会で「年間最優秀デザイナー賞」と「年間最優秀革新ブランド賞」を同時受賞している。
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本作《SHE》は、中国雲南省にある周城村の少数民族「ペー族」の伝統的な絞り染めの技術を取り入れてつくられた巨大な壁面インスタレーション。複雑なパターンを生み出すために、白いコットンの布の「結び・縫い・折り・ひだ作り」という作業を細心の注意を払いながら、繰り返し、3ヶ月以上かけて制作されたという。ペー族の女性たちと、1000年続く技術に対するトリビュートとして、生み出された雲の様な構造体だ。
今回はこの大賞に加え、ふたりの特別賞も発表された。
1979年チリ生まれのダビド・コルバランの《Desértico Ⅱ》(2019)は銅線と樹脂を使った彫刻作品。アタカマ砂漠にあるコルバランの家にインスパイアされた地形学的彫刻シリーズのひとつである本作は、銅採掘産業の負の部分に対する批判を含んだもの。搾取され続ける銅という資源に対する敬意を込めながら銅線を一本一本貼り合わせていくことで、物体の有機的な構築を促す。
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いっぽうの崎山隆之は1958年日本生まれ。《聴涛: Listening to the Waves》(2019)は、器に彫られた波打つような表面のパターンが潮の干満や海流を表現したもので、構造が二重壁で堅固なつくりになっているいっぽう、水のようなフォルムが満ちあふれるエネルギーを感じさせる。
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なお今回のプライズでは、30名のファイナリストの作品がすべてオンラインで公開。パリ・装飾芸術美術館の大広間をバーチャルで再現したこのオンライン展覧会では会場を自由に歩き回ることができ、各作品の細部も高解像度映像とAR(拡張現実)で鑑賞可能となっている。
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また、ロエベ ファンデーションはクラフトプライズ発足の2016年からこれまでの全ファイナリスト(115名)の作品を展示するオンラインプラットフォーム「The Room」もリリース。ジョナサン・アンダーソンは「クラトはロエベの神髄です。『クラフト』という言葉が持つもっとも純粋な意味でのクラフトこそがロエベの命です。そこにロエベの現代性が加わり、それは今後も常に重要であり続けるでしょう」とコメント。更なる進化を遂げたクラフトプライズをぜひ自宅やスマートフォンから鑑賞したい。
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2022年度の応募受付も開始
ロエベは、2022年ロエベファンデーションクラフトプライズの応募受付を開始。2022年のクラフトプライズは、韓国のソウルにて春に開催予定で、プライズへの応募は2021年10月25日までとなる。アーティスト、職人、エッセイスト、キュレーター、及びデザイナーで構成される専門委員会が全応募作品のなかから最大30作品を最終候補として選出。ファイナリストに選ばれた作品は、韓国ソウルにて開催予定の展示会の基礎となり、審査委員によってその中から大賞および特別賞の作品が選ばれる。
なお、2022年度の審査員団には、マグダレン・オドゥンド、アブラハム・トーマス、リン・ファングルが加わる。