70年代のニュー・ジャーマン・シネマ時代を生み出したひとりであり、現代映画界を代表するドイツの映画監督、ヴィム・ヴェンダース。そんなヴェンダースが、東京・渋谷を舞台にアートフィルムを制作することが発表された。
フィーチャーするのは、2020年より進められている渋谷区内の公共トイレを改修する「THE TOKYO TOILET」プロジェクト。主演が俳優の役所広司に決定し、トイレのメンテナンスを行う特別な清掃員たちを主人公にするという。
THE TOKYO TOILETは、多様性を受け入れる社会の実現を目的に、日本財団が渋谷区と協力し誰もが快適に使用できる公共トイレを区内17ヶ所に設置するプロジェクト。安藤忠雄、伊東豊雄、隈研吾、坂茂、佐藤可士和など世界的に活躍する16名の建築家やクリエイターが新たにデザインし、現在までに12ヶ所の公共トイレが完成している。
プロジェクトのトイレ視察やシナリオハンティングのために来日したヴェンダースは5月11日に行われた記者発表会で、「今回の企画に関わることで、何か社会的、都市に関して意義のあるもの、街のかなにある特別な場所に関して何かができること、そして役所広司さんという素晴らしい役者とともに自由に物語を紡ぐことができるのは、自分にとってどんどん最高の企画になっていった」と語っている。
トイレは英語で「Restroom(休憩する場所)」という表現もあるが、ヴェンダースは今回のTHE TOKYO TOILETを実際に見て「真の意味で休める空間に感じた」としつつ、「それについての物語を何章かにわたって綴りたい」と明かした。
同日の記者発表会に登壇した安藤忠雄は、「トイレはどこでもあまり綺麗なものではないが、これが美しかったら日本の国の心が世界中の人たちに伝わるだろう」と語りつつ、メンテナンスを通して「世界が美しく、長くありたい」「地球はひとつだ」という考え方の原点になればいいなと述べている。
なお本作の撮影は年内に行われ、公開は2023年を予定している。東京という街の心の美しさに注目し、ドイツ現代映画の巨匠の目を通じてどのような作品が生まれるのか。期待したい。