昨年6月にSDGs推進室を立ち上げ、アートや芸術がSDGsにどのように関わることができるのか、なぜSDGsに取り組むのかについて議論を重ねてきた東京藝術大学。同大が、その検討の結果として「SDGsビジョン」をウェビナーで発表した。
ウェビナーには東京藝術大学学長の澤和樹、美術学部長で次期学長に内定している日比野克彦、音楽学部長の杉本和寛、理事であり藝大SDGs推進室長の国谷裕子が登壇した。
「SDGsビジョン」では「SDGsが掲げる社会変革に貢献」「社会との結びつきを強化」「持続可能な大学を目指す」「芸術と社会の架け橋となる人材を育成」「独創的な視点からイノベーションを生む」の4つの核が示された。
そのうえで澤は、SDGsが掲げる17の目標のなかに「芸術」がないことに触れ、それは17の目標すべてに「芸術」が接続すべき必要と出番があると主張した。
「SDGsビジョン」の提言は次のように締めくくられている。「藝術活動は人間が人間たる所以。そして人間はこの10年で、既存の価値観を大きく転換させなくてはなりません。社会変革の種を"藝"える"術"を持つ東京藝術大学。『世界を変える創造の源泉』として、豊かで幸福、持続可能な社会を実現する役割を果たします」。
国谷はSDGs推進室を立ち上げ、SDGsを芸術と接続していくかについて学内でヒアリングをした結果、藝大関係者から「押し付けられることへの反発」を感じたという。日比野はこうした空気を踏まえたうえで、芸術がSDGsにおいて為せることについて、次のように私見を述べた。「人間は地球上の王者にとしてすべてをコントロールできると思ってきたが、それを振り返らなければいけないのがいまの時代。次のギアがわからないような状態だが、アートというギアに入れることで安定するのではないか。そこには、分析できないもの、数値にできないもの、比較できないものが含まれており、それこそが芸術が貢献する場所だ」。
また、澤は藝術が既存の価値を変える力をあるのか、という問い対して次のように回答した。「様々な事象を分析しながら科学技術は発展してきたが、その結果多くの課題が生まれている。それは、科学が芸術とともになかったからではないかとすら感じる。芸術を取り入れるということは、人間性を取り戻すことだとも思う」。
さらに日比野はSDGsがもたらすであろう「変革」についても、芸術が携われる余地があるとして次のように述べた。「変わることを焦りすぎたり、その結果を明確にすることにこだわりすぎない方がいい。『変革』は人間のささいな気持ちのうつろいの変化が少しづつ積み重なることで生まれるもので、10年、20年のスパンで『変革』をしていかないと人々は動かなくなってしまうのではないか。そういったうつろいを踏まえたうえで目指す『変革』も芸術の視点を持ち込めばわかってもらえると思う。芸術を取り入れることで『変革』の質を変革させられるのではないか」。
今後は学内での認知を広げるためにステッカーを貼付し、学内学外を問わずどのような連携ができるのかを検討していくという。