アメリカ・ニューオーリンズにあるバンクシーの作品2点が、何者かによってヴァンダル(破壊)行為にさらされた。
「ニューヨーク・ポスト」によると、《Umbrella Girl》と《The Gray Ghost》と題されたふたつの作品には、「King Robbo」や「Team Robbo」と赤いスプレーペイントで描かれている。
これらの作品は、バンクシーが2008年にニューオーリンズを秘密裏に訪問した際に描いたもの。作品の上に描かれた「Robbo」の文字は、生前バンクシーと確執を持っていたイギリスのストリート・アーティスト、キング・ロボ(1969〜2014)のことを指しているとされている。
2009年、バンクシーは1985年にキング・ロボがロンドン・カムデン運河のトンネルに描いた作品を描き足すことでアレンジ。その後ふたりは同作を何度も描き替え、キング・ロボが亡くなったあとは、「Team Robbo」と名乗るグループがバンクシーの作品を破壊し続けた。
今回の事件に対し、「NOLA Art Walk」の共同創設者でニューオーリンズのアートガイドであるカルロス・ファンドラはこう語っている。「バンクシーが好きではない人もいるし、彼の作品を破壊することが自分の名を売るための方法だと思っている人もいるが、彼の作品を保存することは、バンクシーのためだけではない。ニューオーリンズの人々は今年、パンデミックのために多くのものを失い、このパブリック・アートは、彼らの多くにとって慰めと喜びの源ともなっている」。
そのため、ファンドラは地元の有志たちとともに自発的に作品の修復を始めた。現時点では《Umbrella Girl》はほぼ復元されているが、ドレスに塗られていた赤いペンキの部分は意図的に残された。剥がそうとすると下地の黒いペンキの一部までもが破損する危険性があったからだという。
いっぽう、《The Gray Ghost》はまだ修復されていない。本作が描かれた表面は《Umbrella Girl》とは非常に異なっており、違う技術が要求されるからだ。ファンドラらは当面のあいだ、本作に保護カバーをかけることで対処し、今後はフランスの壁画家レベッカ・スケラ監修のもと、絵具を使って作品を塗りつぶすことを検討しているという。
「美術手帖」の取材に対し、ファンドラはこう続けた。「(《Umbrella Girl》は)長年、私の生活の一部になっており、ここニューオーリンズでも多くの人が楽しんでいる。すでに多くの悲しみと絶望を引き起こしているパンデミックにおいて、コミュニティからそれが奪われるのは見たくない」。