現代美術家・杉本博司による書き下ろしの1冊『江之浦奇譚』が10月9日、岩波書店より刊行される。
『江之浦奇譚』は、コロナ禍によって日本滞在を余儀なくされた杉本が、自粛期間で執筆したもの。そのテーマとなっているのは、構想から20年の歳月をかけて開館した「小田原文化財団 江之浦測候所」だ。
江之浦測候所は2017年10月9日、小田原市江之浦地区の箱根外輪山を背にし、相模湾を望む地に誕生した施設。施設内には室町時代に鎌倉の建長寺派明月院の正門として建てられた「明月門」をはじめ、杉本が全国各地から蒐集してきた古美術・古材が使用。「光学硝子舞台」や「冬至光遥拝隧道」「夏至光遥拝ギャラリー」などを含めた施設全体が杉本の作品となっており、いまなお拡大を続けている。
杉本は、この江之浦測候所の馴れ初めから現在までを数々の因縁話を交え、296ページにわたって繰り広げられる壮大な物語として書き上げた。自作の和歌と文章、写真が渾然一体となった1冊。なお表紙は著者自装で、江之浦測候所にある茶室「雨聴天」の腰張り写真があしらわれている。