構想から竣工まで20年以上の歳月をかけて進められてきた大プロジェクト「小田原文化財団 江之浦測候所」が開館したのは2017年10月のこと。現代美術家の杉本博司が施主となり、新素材研究所(杉本博司、榊田倫之による設計事務所)が主体となって設計されたこの文化施設。敷地内には室町時代に鎌倉の建長寺派明月院の正門として建てられた明月門をはじめ、石舞台や光学硝子舞台、あるいは冬至光遥拝隧道、夏至光遥拝ギャラリーなど、見どころは多い。
この江之浦測候所が開館から1年を迎え、その見学エリアを拡張させた。どんな要素が新たに加わったのだろうか?
まず規模がもっとも大きいのが、杉本博司が長年蒐集してきた化石コレクションを展示する「化石窟」だ。昭和30年代、蜜柑栽培が活況を呈していた頃に建てられた道具小屋を整備したこの展示スペースでは、小屋に残されていた蜜柑栽培のための各種道具とともに、杉本の化石のコレクションを展示。約5億年前の三葉虫の化石のほか、約2億年前のアンモナイトなど25点を見ることができる。
また、杉本がこれまで取り組んできた数理模型も2点が加わった。《数理模型0010 Surface of Revolution with constant negative curvature》は、数学上の双曲線関数を目に見えるように模型化したもの。双曲線が無限点で交わるこの数式。実際に無限点をつくることは不可能なため、本作の先端部を5ミリまでつくり込まれており、無限点は鑑賞者が想像するという構造だ。なお、模型の基壇には光学硝子が用いられている。
このほか、1945年8月6日の広島原爆投下時に爆心地近くにあった石造宝塔の塔身部分や縄文時代後期の石棒、江戸時代に仏教寺院の寺域に掲げられていた殺生禁断石柱など、約15ヶ所が拡張エリアに点在。今後も拡張を続けるであろう杉本博司のライフワークから目が離せない。