2020.3.28

日本博全体は延期せず。五輪延期で文化プログラムへの影響は? 有識者に今後を聞く

今年予定されていた東京オリンピック・パラリンピックの延期が発表された。オリンピックに向けて準備が進められてきた文化プログラムにも大きな影響が出ることは必至だ。

日本博ウェブサイトより

日本博全体は延期・中止想定せず

 今夏予定されていた東京オリンピック・パラリンピックが延期。遅くとも2021年夏までの開催となった。これに伴い注視したいのが、文化プログラムの行方だ。

 オリンピックではその憲章のなかで文化オリンピアードの実施が義務付けられている。その中心的なものとして、政府による「日本博」がある。

 日本博は、「日本人と自然」を総合テーマに掲げ、「日本の美」を国内外にアピールしようというもの。プロジェクトは大きく「主催・共催型」「公募助成型」「参画型」の3つに分類され、 国と地方自治体、文化施設が共同で企画・実施する「主催・共催型」のなかには「法隆寺金堂壁画と百済観音」(東京国立博物館)、「隈研吾展」(東京国立近代美術館)、「ファッション イン ジャパン 1945-2020」(国立新美術館)、「古典×現代2020」(同)など、69件が採択。その狙いとして「文化による国家ブランディングの強化」「文化による観光インバウンド拡充、訪日外国人の地方への誘客の促進」「文化芸術立国としての基盤強化」の3点を掲げている。

 しかしながら、3月14日に予定されていたオープニング・セレモニーは中止。新型コロナウイルスの影響で、今後のインバウンドの拡充は当面期待できず、日本博関連の展覧会もスケジュール通りに開催される保証はない(すでに開幕が延期となっているものもある)。

 この状況に対し、日本博事務局側は、「日本博全体についての延期・中止は想定しておりません」と回答。しかし今後の各事業については、「東京オリンピック・パラリンピック競技大会の延長、新型コロナウイルス感染症の状況などを踏まえつつ、各事業者の判断も尊重したうえで、進めさせていただきたいと考えております」とコメントしている。

東京都は「調整中」

 国とは別に、主催都市である東京都は、文化プログラムによって芸術文化都市としての東京の魅力を伝えるための取り組み「Tokyo Tokyo FESTIVAL」を行ってきた。この中核事業には、東京都とアーツカウンシル東京が行う「Tokyo Tokyo FESTIVAL 企画公募」があり、日本のマンガ文化に着目する「漫画『もしも東京』展」や、日本人の建築家とアーティストが独自のパビリオンを設計する「パビリオン・トウキョウ 2020」など13件が採択されている

 こうした五輪を前提とする「Tokyo Tokyo FESTIVAL」についてアーツカウンシル東京は「全体のプロモーション及び個々のプログラムの開催時期について現在検討、調整中」と回答。「東京都の方針や共催団体等の意向による部分もあり、関係各所と調整しているところ」だとする。

 五輪を見据えて準備が進められてきた文化プログラム。今後どのようなシナリオが想定されるのか? ふたりの識者に話を聞いた。

「単純に一年先送りにすれば済むわけではない」神野真吾(千葉大学准教授)

 アートの事業については、そもそもオリパラの文化プログラムとして行われるからといって、文化事業もそれに合わせて延期すべきかが問われるべきだろう。それらがすべてなくなってしまったら、この国の力の入った文化事業の多くがなくなってしまい、2020年がスカスカになってしまう。文化プログラムは、オリンピックをきっかけとして行われる事になったにせよ、オリンピックがなければその意義を失うというものばかりではないはずだ。延期が必要なのかどうか様々な角度から検討するべきだろう。

 しかし、予算の枠組みがオリパラの文化プログラムとして組まれているから、延期しなければ開催できないという判断も多くなされるだろうと想像する。その意義に照らし合わせ、開催をする選択をするのが好ましいのは確かだが、単純に1年先送りにすれば済むわけではないということも指摘されるべきだろう。

 延期の問題は、実はアスリートの代表選考の問題とも似ている。その選手のピークが今年の夏に合うよう選考は行われたはずだ。その代表選手をそのまま翌年の代表としていまうことは、その選考に向け努力をしていた選手にとって好ましいこととは言え、その選考の価値は薄れてしまうだろう。もちろん選手は1年後にまたピークを合わせるよう努力するはずだが、結局「1年前の開催時期のために選ばれた選手たち」による競技という意味を帯びてしまうことは避けられない。

 展示企画においても、2020年のいまにおいて見せたいと思っていた枠組みをそのまま1年後に持って行けるのか? 現代アートの場合であれば、おそらくは少なくない作家がそのままの展示内容のままで良しとはしないだろう。そうすると、展示場所との関係や、展示会場の空間構成も変わってくる。それによって出てくる様々な課題、新たな場所の確保や予算増なども含めて企画のver.2を新たにつくり直すぐらいの作業が必要になるかもしれない。そうした面倒なことも、主催する組織には引き受ける覚悟を持ってほしいと思う。

「中長期的な対応を」作田知樹(Arts and Lawファウンダー、文化政策実務家・研究者)

 日本博予算については国として決定済であり、また申請者から申請があれば、予定通り採択・交付が進むことになる。ただ、コロナ対策で一部中止になった場合に減額があるかどうかは申請の内容次第であり、ケース・バイ・ケースとなる。文化庁補助金について、令和元年度に開催できず延期された事業は過年度繰越のような形で対応している例もあるようだが、一部中止となったが減額にならずに精算を進めている例もあるようで、これまでの補助金同様に基本的にはある程度柔軟に取り扱われるであろう。

 なお、日本博関連予算の45.3億円は観光庁が国際観光旅客税(出国税)として510億円余の財源を持ち、文化庁がうち98億円余を割り当てられて執行する「文化資源を活用したインバウンドのための環境整備」の一部である。

 日本博関連事業は様々だが、例えば補助事業「日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業」についていうと、応募する地方公共団体は文化資源活用推進事業実施計画を策定し、地元の芸・産学官と連携して支援終了後も地域において様々な取組を継続して行う計画があるなど、一過性ではない取組が補助対象となっており、また地元の大学やシンクタンク等の外部の専門機関への委託経費も補助対象となっていて、連携が求められている。

 その趣旨を考えると、令和2年度にインバウンドの観光客数はもはや見込めないのだから、採択された企画においても、単年度の結果に左右されず、催しの規模を縮小しつつ、大学等との連携によって中長期的な「環境整備」に資する体系的・戦略的な取組の割合をより増やした内容に変更するといった対応も検討されるべきと考える。