今号は「アーティストのための宇宙論」と題した特集をお送りします。
サイエンスとアートは、世界や人類の未知の可能性を探求する点において、相似的な存在として共に語られることが多い。小誌では、2018年1月号で「バイオ・アート」の特集を企画している。そこでは、サイエンスやテクノロジーは人間の可能性を拡張し、人間を超えていこうとする潜在力を持っており、いっぽうアートを含む人文学は人間の根源に深く降りていくような、その限界を指し示すものとして措定した。そのうえで、バイオ・アートが提示する「私たちが望むあたらしい生命のかたち」とは何かを考えてきた。
では、宇宙科学とアートはどうだろう? 宇宙のイメージが人間の想像力の産物であった時代ならいざ知らず、科学の領域において日進月歩で新たな発見が続く近代以降、宇宙をあつかったアートはどのようなものでありうるのか。論考で磯部洋明氏が提示した「宇宙をテーマにしたアートは本当に面白いのか?という疑問」もうなずける。今回、特集タイトルを「アーティストのための宇宙論」としたのもそのあたりに理由がある。
宇宙科学の成果を取り入れたアーティストや作品を紹介するのではなく、宇宙とアートの接点を広くとることで、これからの新たな表現の萌芽となればと考えた。かならず訪れる惑星・地球の最後(人類の滅亡?)に備えての宇宙移民構想と、数千億の銀河が存在するなかで確率的には存在する可能性の高い「宇宙人」との接触・コミュニケーション─そのときそこで、人類やその社会はどのようなことができるのか、そして、「私たちはどうなりたいか」が問われる局面になり、アートの真価が試されるかもしれないなどと、特集を通じて考えた。広大な時空間が広がる宇宙とどう関係していくのか、いろんなヒントが散りばめられている本特集を楽しんでください。
2019.09
編集長 岩渕貞哉
(『美術手帖』2019年10月号「Editor’s note」より)