美術手帖 2019年2月号
「Editor’s note」

1月7日発売の『美術手帖』 2019年2月号の特集は「みんなの美術教育」。編集長・岩渕貞哉による「Editor’s note」をお届けします。

『美術手帖』2019年2月号より

 今号は、特集「みんなの美術教育」特集をお送りします。

 さて、みなさんはこれまでどんな美術教育を受けてきたでしょうか。1975年生まれの私自身はといえば、お世辞にも特別な美術教育を受けてきたとは言えない。小学校まではうまくはないけれど単純に手を動かすことが楽しくて、図画工作の時間は好きだった。

 が、中学からは思春期ならではの自意識過剰な時期でもあり、自己表現の表出を求められる美術は苦痛をともなう時間になった(じつはそんな人も多いのではないだろうか)。いま思うと当時の授業は、特集内で語られる「美術“による”教育」ではなく、「美術の教育」だったのかもしれない。鑑賞教育についても行われたのかどうか、ほとんど記憶に残っていない。

 そんな「美術」に苦手意識を持っていた自分が変わったのが、「現代美術」との出合いだった。もともと本を読むのは好きだったので、小説や思想から映画や音楽に目覚めていって、ちょうど1990年代に村上隆氏や会田誠氏の作品にふれることで、アートとは決して自己表現に限られるものでなく、世の中を解析したり、物事を相対化することができる手段ということを知って、いまを生きる自分の問題として関心が高まっていった。

 その後、岡﨑乾二郎氏の薫陶を受けることで、美術にしかない感覚の組織化について考えて操作することを学んだ。ここまで自分の話ばかりで恐縮だが、美術に関してかなり遅咲き(?)だったと言える。が、そのぶん幼少期から息を吸うように美術にふれてきた美術エリート(?)の方々よりも美術にできることを意識的に考えてこられたかもしれないし、いまはまだアートへの扉が開かれていない人にも、その扉との出合いをつくっていきたいと思う。そう。美術への扉は人生のいつでも、たくさん開かれているほうがよいというのが、今回のテーマでもある。

 本特集では、タイトルを「みんなの美術教育」としているように、主に子供を含めてどんな人にとっても価値のある「美術“による”教育」に関する取り組みを多く取り上げている。今回の取材を通じて知った事例も多く、こんなに素晴らしい取り組みがなされていることを紹介できたことには大きな意義を感じている。が、それが日本の教育制度全体への波及など大きなうねりを生み出すことができたら、という思いも残った。

 これはメディアに携わる者として今後の課題として取り組んでいきたい。また、アーティストやキュレーターの養成など、専門教育についても、また機会を改めて扱ってみたい。

『美術手帖』2019年2月号「Editor’s note」より)

編集部

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