今年はソビエト連邦の月探査機が月の裏側の撮影に初めて成功してから60年、人類の月面着陸から50年にあたる年。いまなお人々は宇宙を追い求め、なかでもロシアの美術や文学では宇宙への憧憬やユートピアの創造といったテーマが多く扱われてきた。
そんなロシアと宇宙の関係に焦点を当てた展覧会「夢みる力――未来への飛翔 ロシア現代アートの世界」が、市原湖畔美術館で開催される。ゲストキュレーターはロシア文学・美術・文化を専門とする早稲田大学教授の鴻野わか菜。
本展のスタートは、日常のなかにある宇宙とのつながりの発見。身近な素材を使ったオブジェから幻想文学まで幅広く手がけるレオニート・チシコフによる、パスタで宇宙ステーションを表現した《ラドミール》や、絵本『かぜをひいたおつきさま』の原画などを紹介する。
体験型の展示にも注目したい。航海士として7つの海を旅した経験を持つアレクサンドル・ポノマリョフは、水上の遊歩道を歩きながら極地の映像を鑑賞する《ナルシス》を発表。加えて同館の特徴である湖畔には、ウラジーミル・ナセトキンによる迷路のような大型インスタレーション《空を見よ、自分を見よ》が出現する。
「人間がいかに宇宙を夢見てきたか」を追求する本展では、南極も大きな主題のひとつ。ポノマリョフをコミッショナーとして2017年に実現した世界初の「南極ビエンナーレ」にも焦点を当て、第1回のアートディレクターを務めたアリョーナ・イワノワ=ヨハンソンによる同ビエンナーレについての新作映画『古典元素の探究者たち』(2019)が日本初公開となる。
このほかにも、60~80年代にかけてソ連の過酷な日常を乗り切るために日本への「精神的な亡命」を行い、日本文化に傾倒した経験を持つニキータ・アレクセーエフや、翼や白い衣服を主題に制作を行うターニャ・バダニナが参加し、豊かな顔ぶれが揃う本展。幻想的な展示空間では、宇宙や未知の世界を追い求めてきた人間の「夢みる力」を体感することができるだろう。