津田大介が作家たちのオープンレターに回答。「表現の自由は私たちにとっても重要」

「あいちトリエンナーレ2019」のいち展示である「表現の不自由展・その後」において検閲が行われたとして、抗議のオープンレターを出した海外からの参加作家たち。このオープンレターに対し、芸術監督・津田大介が回答を送付したことが明らかにされた。

 

オープンレターに署名したモニカ・メイヤーのステートメント

 「あいちトリエンナーレ2019」に参加する海外作家たちのうち、モニカ・メイヤーやタニア・ブルゲラら12組(うちキュレーター1人)が、「表現の不自由展・その後」が検閲によって展示中止されたとして提示した「表現の自由を守るために」と題されたオープンレター(全文はこちらに掲載)に対し、芸術監督・津田大介が回答を23日から24日にかけ送付したことがわかった(回答全文は記事末尾に掲載)。

 津田は回答の冒頭で、「同じ展覧会に参加しているアーティストによる作品が展示されなくなったことに対し、皆様が強い憤りや落胆を感じられたことについて、あらためてお詫び申し上げます」と謝罪。「展示が叶わなくなっ た仲間の立場に立って連帯の意思を表明し、すべてのアーティストの活動の核にある『表現の自由』を擁護する皆様の考えに、深い共感を示します。そして皆様がわたしたちの動きを鈍いように感じ、不服に思っていることも理解しています」としている。

 津田は「『表現の自由』を最大限に尊重する」としながら、「表現の不自由展・その後」の中止理由があくまで安全上の理由だったことを主張。「最大限に『表現の自由』を認める立場は一貫しているのです」としている。

 アーティストたちは今回起こった「表現の自由への攻撃」を以下の4つに分類。

1)河村たかし名古屋市長による「表現の不自由展・その後」の展示中止を求める不適切な発言
2)菅義偉官房長官による文化庁からの補助金の見直しを示唆した威嚇ともとれるコメント
3)展覧会スタッフが受けた数多くの匿名嫌がらせ電話
4)「表現の不自由展・その後」を閉鎖しないとテロ行為をすると脅迫するファックス

 1と2について、津田は「河村名古屋市長の発言は、日本国憲法第 21 条に違反する疑いが極めて濃厚であり、アーティストの皆様と同じく、異を唱えます」としているが、「彼らの発言は今回の判断にまったく影響しておりません」と、「表現の不自由展・その後」展示中止の理由が「検閲」ではなかったという立場をあらためて示している。

 加えて3のスタッフに対する匿名の嫌がらせ電話については「未だ法的・刑事的な予防措置を見出せておらず、私たちがもっとも苦慮している課題」と説明。このことが展示再開について回答できない最大の理由であると明らかにしている。

 オープンレターへの署名にはその後、田中功起も加わったことが明らかになっており、作家たちは展示の閉鎖や内容変更などを通じ、「表現の不自由展・その後」の展示再開を求める姿勢を崩していない。

作品名と展示内容が変更されたモニカ・メイヤー《沈黙のClothline》(2019)

 津田はこの展示再開について、「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会」の中間報告を待ったうえで、「再開に向けた様々な可能性を検討していきたい」との考えを明らかにした。

 また「部分的に連帯できる共同体としてプロトコルを表明できないかと模索を始めています」ともしており、事態が停滞しているわけではないことを強調したと言えるだろう。

8月12日付書簡「表現の自由を守る」に署名されたアーティストの皆様 8月12日付で記された書簡「表現の自由を守る」を受け取りました。同じ展覧会に参加し ているアーティストによる作品が展示されなくなったことに対し、皆様が強い憤りや落胆 を感じられたことについて、あらためてお詫び申し上げます。そして、展示が叶わなくなっ た仲間の立場に立って連帯の意思を表明し、すべてのアーティストの活動の核にある「表現 の自由」を擁護する皆様の考えに、深い共感を示します。そして皆様がわたしたちの動きを 鈍いように感じ、不服に思っていることも理解しています。 「世界の文化芸術の発展への貢献」を目的の一つに掲げる国際芸術祭の主催者として、私たちもまた、その実現にあたって基盤となる「表現の自由」を最大限に尊重することをここに表明します。私たちの国際現代美術展の中の展覧会「表現の不自由展・その後」は、自分と異なる意見や他者の思想に対する不寛容さが広がり、自己規制が蔓延した現代の日本社会において、企画を発案して実現すること自体が非常に挑戦的な企画でした。この試みは、日 本国内の公的な美術館や芸術祭でも類をみないものです。私たちはまさに「表現の自由」を尊重するからこそ、いくつもの大変な課題を乗り越えながらこの展覧会を実現し、8月1日の開幕を迎えたのでした。開幕当初から、私たちのもとには、想定を超える脅迫や、苛烈な電話攻撃、非人道的なテロの予告が続きました。今回の決定は、あくまでも、危険の差し迫っていた来場者や職員の人命を優先した判断であり、最大限に「表現の自由」を認める立場は一貫しているのです。 皆様の書簡に記されているように、表現の自由に対するいくつかの攻撃があったことにつ いて、私たちも深く憂慮しており、それらに対して私たちは毅然と立ち向かいます。 (1)(2)河村名古屋市長の発言は、日本国憲法第21条に違反する疑いが極めて濃厚であり、アーティストの皆様と同じく、異を唱えます。また、複数の公人による発言は、表現の自由や知る権利を毀損し、文化芸術事業を国家レベルで委縮させる恐れがあり、看過し難いものです。表現の自由を尊重した私たちの取り組みは、公に向けて広く議論の場を提供する ための試みとして、公益性の点から鑑みて適切な公金の使途であると考えています。もちろん、彼らの発言は今回の判断にまったく影響しておりません。 (3)他方、職員や他の組織への電話での攻撃については、未だ法的・刑事的な予防措置を 見出せておらず、私たちが最も苦慮している課題です。このことが、アーティストの皆様に展示室の再開の如何について明快な回答を差し上げることができないでいる最大の理由です。攻撃の中には、電話対応をする者の家族を特定し、危害を加えるなどという卑劣かつ具 体的な脅迫も含まれます。 (4)テロを予告するファックスに対しては、決して屈することはなく、警察の捜査に私た ちも積極的に協力することで、すでに犯人が逮捕されました。他の脅迫者の特定と逮捕にも 全力を挙げてもらうよう、警察の捜査に引き続き協力していきます。 「表現の不自由展・その後」の再開については、8月16日に第三者による「あいちトリエ ンナーレのあり方検証委員会」が立ち上がり、準備と実施、中止にいたるまでのプロセスが検証されることになりました。その中間報告を待って、再開に向けた様々な可能性を検討していきたいと考えています。 そして、私たちはばらばらの存在としてステートメントでその立場を表明するだけでなく、 部分的に連帯できる共同体としてプロトコルを表明できないかと模索を始めています。そのために私たちは、今後もアーティストの皆様や観客の声を聴き、国内外の美術専門家や関 係機関との議論を重ねていく所存です。またヘイトや歴史修正主義の台頭に対しても、明白にそれを拒否する姿勢です。 表現の自由はアーティストの皆様と同じく、私たちにとっても重要です。 あいちトリエンナーレ 2019 芸術監督津田大介

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