「あいちトリエンナーレ」の現状に抗議。田中功起が展示のフレームを再設定へ

「あいちトリエンナーレ2019」の参加作家である田中功起が、自身の作品展示のフレームを再設定することを明らかにした。展示の変更は9月3日に行われる。

 

田中功起《抽象・家族》(2019)の展示風景

「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由点・その後」展示中止に対し、ステートメントを発表した参加作家のうちのひとりである田中功起が、自身の展示《抽象・家族》(2019)を「再設定」すると発表した。

 これまで、モニカ・メイヤーやタニア・ブルゲラといった海外作家らは8月12日付で「検閲」に抗議するオープンレターを公開。8月20日に「検閲されたアーティストたちとの連帯を示す」ために展示室の閉鎖や展示内容の変更を行った。田中はこのオープンレターに、キャンディス・ブレイズとともにサインしたかたちだ。日本人作家として展示内容に変更を加えるのは田中が初めてとなる。

 今回、田中は「展示の再設定のための、遅れたステートメント」と題した声明を公開(全文は本文末に掲載)。そのなかで、「『表現の不自由展・その後』閉鎖をめぐる問題は、当初『リスク管理』をめぐる組織運営の問題であった」としながら「しかし、いま現在の状況は、大村秀章愛知県知事と津田大介芸術監督による、『安全性』の名の元に行われる自己検閲へと徐々に問題がスライドしてきていると、ぼくは思う」と主張。「第三者委員会を設けることによって迅速な『表現の不自由展・その後』再開への道が開かれるというのは方便であって、むしろそれによって遅延が行われている」と指摘している。

 こうした状況に対し、田中は展示の一時停止ではなく、フレームの再設定を選択。これまで展示室は誰もが自由に出入りすることができていたが、9月3日以降は入り口の扉が半分閉ざされた状態となり、内部を見ることはできるものの、入ることはできなくなるという。また展示室の入り口には海外作家たちのオープンレターが貼られ、観客向けのアーティスト・ノート、「不安についての短い手紙」、そして映像のウェブリンクが配布される。

 そして、パフォーミング・アーツとしてのプログラム(9月7日と21日)は予定通り行いながら、これを拡張するかたちで、毎週土曜日に「集会」としてより拡張し、展示空間で実施。「映像を通して出演者たちの声を聞き、そこで語られたこと/語れなかったことを考え、彼ら/彼女たちの言葉をガイドにして、観客同士がお互いに話せる場所にする」としている。なお田中は毎回その集会に参加するという。

 なお同トリエンナーレ「表現の不自由展・その後」をめぐっては、トリエンナーレ参加作家の毒山凡太朗が独自のスペース「多賀宮 TAGA-GU」をオープン。また加藤翼も毒山とともに別のスペース「サナトリウム」の開設を発表するなど、アーティストが主体となる動きが活発化してきている。

展示の再設定のための、遅れたステートメント 「表現の不自由展・その後」閉鎖をめぐる問題は、当初「リスク管理」をめぐる組織運営の問題であった。しかし、いま現在の状況は、大村秀章愛知県知事と津田大介芸術監督による、「安全性」の名の元に行われる自己検閲へと徐々に問題がスライドしてきていると、ぼくは思う。第三者委員会を設けることによって迅速な「表現の不自由展・その後」再開への道が開かれるというのは方便であって、むしろそれによって遅延が行われている。事務局はさまざまな煩雑な問題の処理によって日々の運営を忙殺されていると聞く。そもそも事務局内での各部署の連携はどの程度できているのか、ぼくには分からない。全ての事柄を把握することは難しいし、細部は入り組んでいる。 しかしはっきりしていることがある。それは、組織作りの不備と対処方法への準備不足であった問題が、「テロ予告や脅迫との戦い」という大きなフレームによって焦点がぼかされ、それによって覆い隠されたのは、政治家たちによる歴史の否定であり、検閲を匂わせる発言であり、人びとの差別感情を煽る言葉たちである。それらはこれからの「表現の自由」をも奪うきっかけとなるだろう。 ぼくは、このような現状を追認するためにいままで活動を続けてきたわけではない。これは私たちの問題であり、ここで行われるさまざまな選択と行動は、未来の誰かにも深い影響を与えることになる。 この状況に抗議し、自分たちの問題として考えるためには、展示自体のフレームを再設定することが必要であるとぼくは思う。ぼくが行うのは「一時停止」ではなく、「展示」をパフォーマティブにすることである。今回のぼくのプロジェクトは、フィクショナルな単一民族としての「日本人」像を解体し、出演者たちが曝されてきた差別について、観客が耳を傾ける行為を促すものであった。そこで、もともとは展示の拡張として構想されていたあいちトリエンナーレの中でのパフォーミング・アーツ枠による二日だけのエクステンション・イベントを、毎週末の集会としてより拡張し、展示空間で行う。映像を通して出演者たちの声を聞き、そこで語られたこと/語れなかったことを考え、彼ら/彼女たちの言葉をガイドにして、観客同士がお互いに話せる場所にする。展示としての機能(開館時間内にランダムに行き来ができる鑑賞形式)は制限される。しかし限定された時間の中で「展示」を「集会化」する。これが、現在のあいちトリエンナーレが置かれている状況への、ぼくの暫定的な応答である。 田中功起 2019年8月21日

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