「あいちトリエンナーレ2019」に参加しているアーティスト・毒山凡太朗が、名古屋市西区にアーティスト・ラン・スペース「多賀宮 TAGA-GU」をオープンすることを発表した。
毒山は1984年福島県生まれ。現在は東京を拠点に活動している。2011年3月11日に発生した東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故によって、故郷である福島の状況が一変したことをきっかけに作品制作を開始。忘れ去られた過去の記憶や場所、現代社会で見えにくくなっている問題や事象を調査し、映像やインスタレーションを制作している。今年に入ってからは、αMの展覧会シリーズ「東京計画2019」で第1弾の個展を行った。
あいちトリエンナーレ2019においては、四間道・円頓寺で作品を展示。そこでは、ソメイヨシノと名古屋名物「ういろう」をテーマにした作品《Synchronized Cherry Blossom》(2019)を中心に展示を構成している。
今回のスペースは、あいちトリエンナー レ 2019の「表現の不自由展・その後」展示中止をきっかけとした一連の騒動を受けて設立されたもので、アーティストとして作品を展示するとともに、円頓寺本町商店街の人々と対話する場所、作品を通して様々な人々が自由な対話ができる場所として機能することを目指すとしている。なお、設置期限は未定。
現時点で決定しているイベントは、トーク1:「週刊武藤(仮)」。あいちトリエンナーレ2010、2013、2016にアーキテクトとして参加した大同大学建築学科教授・武藤隆をゲストに招き、あいちトリエンナーレ2019の一連の騒動について考えるとともに、今回のトリエンナーレの楽しみ方を探るという。
なお毒山は、8月6日に発表された同トリエンナーレ参加作家たちのステートメントには署名しておらず、今回のスペース設立にあたり独自のステートメントを発表。「芸術と社会、アーティストと芸術監督、国と県、展示に反対する者と賛同する者、二項対立の構造を越えて、作品を展示し、議論する場の必要を感じ、ここにアーティストランスペースをつくる」としている。全文は以下の通り。
表明する。 私は「あいちトリエンナーレ2019 情の時代」に協力してくれた、円頓寺本町商店街の人々と対話する場所として、また、人々が本音で話し合える場所を作りたいと思い、ここ円頓寺本町商店街にある多賀宮にテンポラリーなアーティストランスペースを設置する。 ここではあいちトリエンナーレに関わる全ての人々と連携し、議論を重ねることを目指す。 アーティストは、議論する場を作るため、作品を展示する。 「あいちトリエンナーレ2019 『表現の不自由展・その後』の展示セクションの閉鎖について」と題された、あいちトリエンナーレ2019参加アーティストによる共同のアーティスト・ ステイトメントには、《『表現の不自由展・その後』の展示は継続されるべきであったと考えます。》という一文が書かれていた。観客や関係者の心身の安全を確保した上での展示継続を意図しているものの、「テロの脅威に屈せず、展示を継続すべきだった」と誤読される可能性を孕んでいた。その一文を取り消して欲しいと伝えたところ、その場合、多くの作家がこのステートメントに署名しない可能性があるため、できないという返答であった。その ため、私は署名をせず、ここに新たにステートメントを出す。 アーティストは作品を通して態度を示し、たくさんの人々と作品を共有し、議論していく必要がある。 テロの脅威に屈せず展示する作品とは何か。そのような状態でまともな議論は可能か。 芸術と社会、アーティストと芸術監督、国と県、展示に反対する者と賛同する者、二項対立の構造を越えて、作品を展示し、議論する場の必要を感じ、ここにアーティストランスペースを作る。形は違うが、展示を中止した多くのあいちトリエンナーレ参加作家たちと同じ理念の意思表明である。 ここで展示されていく作品は、このステートメントに賛同する人々の作品であり、毒山凡太朗と円頓寺本町商店街の皆さんによってキュレーション、選択された作品である。積極的な議論の場となるよう、名古屋市民をはじめ、国内外の様々な人々が自由に発言できる場所にしたいと思う。同時に、作品や議論企画の提案を広く募集する。 毒山凡太朗