2019.5.19

グレゴール・シュナイダーが廃ビルを使った大型インスタレーションを発表。神戸の新たな芸術祭「TRANS-」に注目

今秋、神戸で初開催される「アート・プロジェクト:TRANS- 」は、招聘作家をやなぎみわとグレゴール・シュナイダーの2名に絞った異色のアート・プロジェクトだ。神戸の3つのエリアを舞台に、2名の作家はどのような作品展示を行うのか? その一部明らかになった。

グレゴール・シュナイダー u r 10 コーヒールーム 1993 部屋の内部で回る部屋、石膏ボード、集成材、支柱と滑車の付いた木製構造物ほか © Gregor Schneider / VG Bild-Kunst Bonn
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 今秋神戸で開催される芸術祭「アート・プロジェクト:TRANS- 」(以下、TRANS)は、グレゴール・シュナイダーとやなぎみわの2名だけで作品展示を行う異色のアートプロジェクト。ディレクターは「ヨコハマトリエンナーレ2014」のキュレーターなどを担当してきた林寿美が務める。

 林はTRANSについてリリースの中で、「ゆっくりと時代から取り残されつつあるこのまちが、 今こそグローカル・シティの先鋒となるべく、 何かを“飛び越え、あちら側へ向かう”ための試みが、 アート・プロジェクト:TRANS- である」としている。

 そんなTRANSの、兵庫港、新開地、新長田を中心とする3つの展示エリアでの展示内容が一部発表された。

兵庫港

 シュナイダーは新開地エリアで、2014年に制作された《浴室》と、旧・兵庫県立健康生活科学研究所を作品化した新作の大型インスタレーション《虚構か現実か》(仮)を展示。

 《浴室》が設置されるのは、高速神戸駅と新開地駅を結ぶ地下街「メトロこうべ」。100メートル以上も続く地下通路とシンクロするかのように、いつ終わるとも知れない時空間を体験できる大型インスタレーションだ。公共空間でこのような大規模作品が展開されるのは珍しいと言えるだろう。

グレゴール・シュナイダー《浴室》の展示場所であるメトロこうべ
グレゴール・シュナイダー《浴室》(2014)イメージカット

 また旧・兵庫県立健康生活科学研究所は、兵庫県の衛生研究所として設立された地下1階、地上7階建ての廃ビル。展示終了後に建物自体の取り壊しが決まっているため、同作は「TRANS-」期間の限定公開となる。《虚構か現実か》(仮)において来場者は、感染症や食品、 飲料水などのための検査室や研究室の間を彷徨い歩きながら、見えない恐怖を体感するという。

グレゴール・シュナイダー《虚構か現実か》(新作・仮称、2019)の展示場所である兵庫県立健康生活科学研究所
グレゴール・シュナイダー《虚構か現実か》(新作・仮称、2019)の展示場所である兵庫県立健康生活科学研究所

 これに加えてシュナイダーは、兵庫港エリアで同じく取り壊しが決まっている低所得の男性勤労者のための一時宿泊施設「兵庫荘」を作品化。日本の高度成長期を支えた人々の素顔を垣間見せる新作《消えゆく兵庫荘》(仮)を展開する。

 また新長田エリアにある駒ヶ林駅構内では、アメリカ軍がキューバに設けたグアンタナモ湾収容キャンプ内の施設を再現したインスタレーション《白の拷問》(2005〜)の展示を行う。

グレゴール・シュナイダー《消えゆく兵庫荘》(新作・仮称、2019)展示場所である兵庫荘の様子
グレゴール・シュナイダー 白の拷問 2005-

 いっぽうやなぎは、2016年より取り組んでいる野外劇《日輪の翼》を、公演場所の地域特性を織り込み、バージョンアップさせて上演。同作は中上健次の小説を原作としたもので、7人の老婆と若者たちがトレーラーに乗って日本各地の聖地を巡る物語を、芝居、歌、ロック・ミュージック、サーカス・パフォーマンス、ポールダンスで構成した野外劇。台湾製の開閉式トレーラーを舞台にした巡礼劇だ。

 今回の公演場所は、やなぎの生家の近くにある神戸市中央卸売市場内の埠頭。すぐそばで魚が荷揚げされ、解体されるという生々しい場所性と、パフォーマーが繰り広げる作品世界がどう交わるのか、注目したい。

神戸市中央卸売市場 イメージカット