華やかな装飾性と世紀末的な官能性を併せ持つ作品を手がけた、19世紀末ウィーンを代表する画家、グスタフ・クリムト。
いまなお絶大な人気を誇るクリムトの、初期の自然主義的な作品から、分離派結成後の「黄金様式」の時代の代表作、甘美な女性像や、数多く手がけた風景画まで、日本では過去最多となる約25点以上の油彩画を紹介する展覧会が2019年に開催される。11月9日に都内で行われた記者発表会で、この展覧会が見どころが紹介された。
まずは展覧会の開催にあたって、駐日オーストリア大使のフーベルト・ハイッスは、「日本の影響を受けた芸術がふたたびに日本で紹介されることを光栄に思う」として、ジャポニズムの影響を受けたクリムトの作品が来日することの喜びを表した。
本展監修者のひとり、千足伸行(成城大学名誉教授、広島県立美術館館長)は、「クリムトが残した作品は約200点。そのなかには未完成のものも多いため、約20点もの作品が集まる本展は貴重」と説明。同じく監修者であり、クリムトの作品を多数所蔵するヴェルヴェデーレ宮オーストリア絵画館学芸員のマーカス・フェリンガーから、重要作品の説明が行われた。
まず、初期作品である《17歳のエミーリエ・フレーゲの肖像》(1981)。この絵画では、クリムトと親密な関係にあり、もっとも重要な人物とされるされるエミーリエ・フレーゲが描かれている。クリムトの作品には日本美術からの影響が見られるが、本作の額縁でも、雑誌を参考に描いたとされる日本的なモチーフが見られる
芸術家のグループ「ウィーン分離派」に加入した直後に描いた作品が、《ヘレーネ・クリムトの肖像》(1898)だ。6歳の姪を描いた本作は、最大限のシンプルさを目指すとともに、従来的な肖像画の伝統である「横顔」が取り入れられている。見るものの印象を決定づけているのは、はっきりとした輪郭線。ドイツ語ではこうした描画を「木版画のよう」と表現するという。
足元に蛇を巻き付かせた女性が描かれた《ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)》(1899)は発表当時、保守的な批評家の多くに理解されず、そのモダンさゆえに「醜い」と批判された作品。1897年の「ウィーン分離派」結成直前に構想された本作は、クリムトたちが掲げた新たな芸術運動の理想をはっきりと示している。
《ユディトⅠ》(1901)では、クリムトは初めて画材として金を使用。官能、装飾、造形まで、クリムトの代名詞と言える要素がすべてが盛り込まれた初の作品だ。旧約聖書外伝の「ユディト記」に登場する美しい未亡人・ユディトが描かれた本作で、クリムトは女性のセクシュアルな魅力の危険性を主張。「黄金様式」の時代の代表作のひとつでもある。
いっぽう、クリムトが多く残した風景画も本展の見どころだ。風景を描くことで安らぎを得ていたクリムト。望遠鏡を覗いた先の風景を描いた《アッター湖畔のカンマー城III》(1909 / 10)は、印象派を思わせる点描とフラットな画面が特徴。これには、風景画にジュエリーのような装飾的な意味を持たせるというクリムトの意図があるという。
そのほか、フェリンガーが「後期のスタイルで描かれた完璧な作品」と語り、東アジアの美術品の影響が見られる《オイゲニア・プリマフェージの肖像》や、同じく東アジアの織物や浮世絵を思わせる色彩が印象的な《赤子(ゆりかご)》も出品される。
そして本展最大となるのが、全長34メートルにおよぶ《ベートーヴェン・フリーズ》(1984)の複製画だ。ベートーヴェンの交響曲第9番着想を得てクリムトが制作したこの絵画では、光を反射し輝く素材が多用されている。輝きのなかの歓喜を表現した本作の精密な原寸大複製に期待が高まる。
クリムトの傑作が集まるとともに、それら作品にみられる日本からの影響も検証できる本展。鑑賞ガイドとチケットファイルがセットになった特別券は11月10日から発売スタートするため、気になる方は早めのチェックをおすすめしたい。
なお、2019年4月24日からは東京の国立新美術館でグスタフ・クリムトやエゴン・シーレらが活躍したこの黄金期と世紀末美術が誕生するまでの過程に焦点を当てた「ウィーン・モダン」展も開催。19年春はクリムトフィーバーが起こりそうだ。