街中の壁に、ステンシル(型紙)を使って反資本主義的、あるいは反権力的なグラフィティを残し、世界中にその名が知られるアーティスト・バンクシー。現在もその正体は判明していないバンクシーが、パレスチナ・ヨルダン西岸地区に描いたとある作品。これにフォーカスしたのが、映画『バンクシーを盗んだ男』だ。
映画のおもな舞台となるのは、紛争地区に指定されているパレスチナ・ヨルダン西岸地区にあるベツレヘム。そこには、パレスチナとイスラエルを分断する高さ8メートル、全長450キロを超える巨大な壁が存在している。そのパレスチナ側の壁の一部に描かれたのが、バンクシーによる《ロバと兵士》だった。この作品は「住民をロバに例えた」ものとしてパレスチナで反感を呼ぶ。そして、怒った地元住民がジェットカターで作品を切り取り、オークションで競売にかけてしまう事態に。
バンクシーを「偽善者」だと呼ぶ地元住民。いっぽうでバンクシーを自分たちの「代弁者」だと賞賛する行政関係者。そして、バンクシーの作品に狂乱するマーケット。本作では、ストリート・アートのあり方や、法的な問題、政治的な問題、マーケットの反応など、バンクシーが各方面にもたらす影響を描き出している(なお、バンクシーの姿は一切出てこない)。
ナレーションは、アメリカ・ロック界の生ける伝説、イギー・ポップ。本作を通して、あらためてバンクシー、そしてストリート・アートについて考えたい。