今号は「テレビドラマ」特集をお送りします。本企画のひとつの大きなきっかけは、2017年5~8月に早稲田大学演劇博物館で「テレビの見る夢─大テレビドラマ博覧会」が開かれたことにある(「山田太一展」も同時開催)。そして、この博物館の館長で展覧会の企画者でもある岡室美奈子氏を今回、監修者としてお招きした。
「大テレビドラマ博覧会」は、日本でテレビ放送が始まった1953年から現在までの日本のテレビドラマを初めて通史的に取り上げた展覧会と言える。会場では、様々な時代の大量のテレビモニターがインスタレーションさながらに積み上げられており、放映された映像からスチル、台本などの多くの資料によって構成されていた。ただし、そこで印象的だったのは、電源の入っていない多くのブラウン管モニターに象徴されるような、時代を画してきた映像作品の不在だった。
これにはテレビドラマ特有のいろいろな理由が挙げられる。そもそも当初は生放送だったり、録画テープが高価だったため上書きされていたりして、オリジナルのマスターテープが残っていない。また、出演者、制作者、音楽など権利関係が複雑で上映が難しいといった、日本のテレビ環境に特有の事情もあるだろう。しかし、展示でも再現されていたようにお茶の間の中心を占め、一家団欒の象徴であったテレビドラマは、戦後日本の日常生活の精神を伝える重要なメディアと言える。本特集がその役割の一端でも担えればと願いつつ、サーベイがさらに進展することが待たれる。
そして、ネットの普及と大きなデータの送受信が可能になった現在、映像コンテンツの舞台はテレビ放送やDVDパッケージでの視聴から、パソコンやスマホによるビデオ・オン・デマンドでの視聴へと徐々に移り変わっており、そのなかで続々と新たなドラマが生み出されている。この受容環境や予算組みなど下部構造の激変は、コンテンツの制作体制や内容に影響を与えないはずはない。では、どのような変化が起こっており、今後のドラマ表現はどうなっていくのか? 本特集でも、テレビドラマを主に取り上げた第1部に続く第2部で、その渦中にいる制作者や論者に話を聞いた。
どんなに世の中が変わっても人間が生きていくかぎり、「日常の中の想像力」としての物語がもとめられていくことに変わりはない。この特集から、そんなことを感じ取っていただけたら嬉しいです。
2018.01
編集長 岩渕貞哉
(『美術手帖』2018年2月号「Editor’s note」より)