東京・西麻布の9s Galleryで、現代アーティスト・藤嶋咲子による個展「WRONG HERO」が開催される。会期は10月19日〜27日。
藤嶋は、アナログとデジタル、2Dと3D、現実と仮想現実とを行き来しながら実験的な作品を制作するアーティストだ。活動初期は配管や工場をモチーフに、密なパターンを“勝手な秩序”でカラフルに表現した作品群を発表。近年は、COVID-19によるロックダウン時に発表した、SNS上で参加者を募りバーチャル空間でデモを実施する作品をきっかけに、SNSに流れる「個人の声」を掬い上げる作品群を制作した。
本展では、そんな藤嶋による新作《WRONG HERO》が発表される。タイムラインにテキストとして埋没していく「個人の声」を、テキストだけではないかたちで体験できるようにというコンセプトから、ビデオゲーム形式の作品を出展。ビデオゲームの特性とも言える「他者を演じる」「没入する」といった体験を通じて、社会的な問題に対する新たな視点を提示するものとなる。
“For most of history, Anonymous was a woman.” - Virginia Woolf
「歴史を通じて、匿名であり続けたのは女性だった。」 - ヴァージニア・ウルフ
先日SNSで行ったアンケートには、ジェンダーにまつわる多くの声が寄せられた。例えばそこには、「長男を優先されることへの苦しみ」を語る女性の声や、「自分だからではなく『長男だから』大事にされることへの苦しみ」を語る男性の声があった。これらの声は、社会の中で押し付けられた役割に縛られ、ネットの中で埋もれがちだ。『WRONG HERO』は、そんな声をゲーム、そしてアートの領域で可視化する試みである。
(中略)
この展示は、埋もれた声を拾い上げ、観客が押し付けられた役割と対峙する実験の場だ。プレイヤーとしての観客は、自分の選択を問い直すだけでなく、システムそのものの修正が必要であることに気づくかもしれない。
ヴァージニア・ウルフは「匿名であり続けたのは女性だった」と言ったが、私たちはそろそろその役割に飽きている。『WRONG HERO』の主人公は、もう「姫」になって救われるのを待つつもりはないし、男性たちも「強くなければならない勇者」という役割を押し付けられる必要はない。誰もが、決められた「勇者」や「脇役」のスクリプトから解放され、自分で新しいクエストを作る時だ。
(プレスリリース「Artist Statement」より一部抜粋)