東京・天王洲のANOMALYで、宇治野宗輝の個展「Lost Frontier」が開催される。展示タイトルは、かつて存在した帝国主義時代の未開拓の領域・境界を意味するものだ。会期は7月7日から8月5日まで。
宇治野宗輝は1964年東京都生まれ。「物質文明のリサーチ」を標榜し、身近にある家電、ヘアドライヤやエレキギター、自動車などのファウンド・オブジェクトを再構成、近代の文化に対する批評的な作品を制作してきたアーティスト。
その制作においては、「全ての工業製品は戦争に通じていて、全てのDIYアクティビティは革命に通じている」という原理に基づいて、DIYの技術を採用。「物質文明のリサーチ」を標榜する宇治野の作品を構成するのは、20世紀的な発展の象徴である大量生産品だ。「物質」はつながりあって巨大な姿となり、「モノ」だけが持つ圧倒的な現存を鑑賞者に示してきた。
本展は、新作の映像作品、サウンド・スカルプチュアと映像の複合作品、日本起源でない巻き寿司シリーズのペインティングで構成される。新作《The Theme from Lost Frontier》は、鉄道模型、植民地支配的な広告と観光の絵葉書、土産物のマグカップ等を用いて、文字通り地上の「Lost Frontier」を扱ったインダストリアルノイズ的な音響のヴィデオ作品。
同じく新作の《Lost Frontier》は、満洲で生まれ育った宇治野の実母が語る「故郷」を映しだした作品。《The Theme from Lost Frontier》とあわせて鑑賞することで、日本とアメリカと中国 (満洲)との関係が相対的に浮かび上がるという。
《Homy & The Rotators》は、20世紀のマスプロダクトをDIYの技術で再構成したリズム・セクション「ザ・ローテーターズ」と、2017年より開始したナラティブな動画作品の時間軸を統合する実験的なプロジェクト。コンシューマー・テクノロジーを組み合わせたサウンド・スカルプチュアのビートに乗って、今年100歳になる宇治野の母が生まれ故郷の満洲で最も好きな食事だったいう、餃子の思い出について語っている。
《Spicy Tuna Roll》や《California Roll》など、「日本起源でない巻き寿司のペインティング・シリーズ」は、外来文化の受容形態と独自の変容を絵画化した作品で、ポップでキッチュな大衆文化をミニマルに表現している。
ジョン・F・ケネディが1960年に提唱した「ニュー・フロンティア」で、人口、生存・寿命、教育、住宅、科学・宇宙といった20世紀に取り組むべき新たな課題を掲げてから60年余り。今日においては、上述の課題についてもすでに限界が見えているようにも思われる。宇治野は、ここで挙げられた「新たな課題」に向かう人間の欲望は帝国主義的な「Lost Frontier」と同等で、自らの20世紀の反省と合わさって「ビターな感じがしてしまう」としている。
こうした時代において、20世紀戦前の植民地主義のもとで営まれた極めて個人的な経験や、戦後から現在まで止むことのない大量生産品の断片や記録で構成される本展は、いかなる批評的視点を提示するのだろうか。