金沢市の中心部で2020年6月に開館し、徒歩圏内に複数のスペースを展開する私設現代アート美術館「KAMU kanazawa(カム カナザワ)」。同館が、金沢の歓楽街をジャックした。
金沢で随一の繁華街である新天地。個性的な飲食店が軒を連ねる場所で開催されているのが、 森山大道の企画展「Brightness/Contrast」(〜2023年3月31日)だ。本展は、KAMU kanazawaが金沢市の 「アートナイトイベント開催事業」と連携して行うもので、街自体を展示空間とし、街の文化や景観の特徴を改造、拡張し、気軽にアートにふれられる環境をつくるプロジェクト「TOWN hack」の第3弾。
KAMU kanazawaは、2020年12月に同じく金沢の繁華街である片町に森山大道の作品《LipBar》の展示を開始。今回の「Brightness/Contrast」は、これに連なるものとして考案されたものだ。コロナによって打撃を受けた金沢の繁華街に対し、「この街に関わるKAMU kanazawaは何ができるのか?」と考えることから始まり、作家、金沢市や新天地商店街組合の協力によって実現したという。
森山の作品は、新天地の店舗サインに混ざり合うように、ライトボックスの突き出し看板に展示。年代関係なく、森山の代表的な写真集から選ばれた40点もの写真が、昭和の風情を色濃く残す街並みに溶け込み、街をさらに濃密なものへと変化させている。
また作品はぞれぞれ、長方形、正方形、円形の看板に切り取られているため、オリジナルプリントでは見られない大胆な構図となっている。時間を忘れて見入ってしまうことだろう。
これに加え、金沢市内では19本の電柱に森山の写真を展示する「唇:エロスあるいはエロスではない何か」(~2023年10月22日)も同時開催。こちらも《Lip Bar》と呼応するように、森山が好んで作品としてきた被写体「唇」に関係する作品をセレクト。1960 年代から2010年代までの作品が、脇道や路地裏に潜む。
街中で作品を探し、知らない道を歩き、知らない金沢、知らない店を見つけるという楽しみを提供する今回の試み。金沢21世紀美術館や国立工芸館など数々の美術館が位置する金沢の、新たなアートの楽しみ方となるだろう。