杉本博司の大作である「江之浦測候所」を運営する公益財団法人小田原文化財団は、神奈川県立金沢文庫、春日大社とともに春日信仰を紹介する特別展「春日神霊の旅─杉本博司 常陸から大和へ」を、金沢文庫で開催する。会期は2022年1月29日〜3月21日。
奈良市にある春日大社は、768年に奈良盆地の東に位置する御蓋山の麓に造形された神社。全国に約1000社ある春日神社の総本社であり、世界文化遺産「古都奈良の文化財」のひとつとして登録されている。この春日大社は平城宮鎮護の守護神であり、藤原氏の氏神。また藤原氏の氏寺・興福寺とも密接な関係を持ち、神仏信仰の中核を成してきた。いっぽう、東国仏教の拠点となった称名寺・金沢文庫は鎌倉時代における奈良の窓口であり、春日大社・興福寺由来の仏教書を多数所蔵。両社寺の信仰を考えるうえで重要な史料が含まれている。また、小田原文化財団も杉本博司が蒐集してきた春日信仰を中心とする神道美術を所蔵している。
本展は、金沢文庫と小田原文化財団の所蔵品を中心に、春日大社に由来する文化財や工芸品の数々を展示するものだ。
杉本は30代の頃に《春日鹿曼荼羅》(室町時代)を入手。以降、 「古美術を集めるうちに、春日信仰のものが不思議と多く手元に残るようになった」という。
春日信仰の造形は、春日山を描いた宮曼荼羅や、鹿を描いた鹿曼荼羅、古神宝などが特徴的なもの。本展では、杉本が蒐集した春日大社の若宮社と文殊菩薩の出現が描かれた唯一の宮曼荼羅《春日若宮曼荼羅》(鎌倉時代)をはじめ、神鹿に乗る春日本地仏の地蔵菩薩立像(鎌倉時代、個人蔵)など、通常の春日大社展では見られないような作品約90件を展示。金沢文庫の主任学芸員・瀨谷貴之は「例を見ない春日大社の展覧会になる」と自信をのぞかせる。
また、展覧会では春日信仰に連なるものとして、杉本博司の《那智滝》や《華厳滝》といった写真作品を、阿弥陀如来像、男神坐像とともに展示。加えて、アーティストの須田悦弘が補作した貴重な作品も見ることができる。
2022年3月には春日大社から神霊の勧請を受け、江之浦測候所がある柑橘山に春日社が建立される。杉本は、「この展覧会を企画することで、私の心の旅路をもたどれるのではないかと思う」「日本古来の信仰の姿をいまの人々にお見せしたい」と意気込む。展示デザインも含め、新たな視点で春日大社を見つめる契機となりそうだ。