移り変わる四季の風景を叙情的に描いたことから「旅情詩人」とも称された版画家・川瀬巴水(1883~1957)。その大規模回顧展「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」が新宿のSOMPO美術館で開催される。会期は10月2日〜12月26日。
川瀬巴水は大正〜昭和にかけて活躍した版画家。幼少期より絵を描くことを好み、はじめは画家を志したが、27歳で鏑木清方(1878〜1972)の門人となり、同門の伊東深水(1898〜1972)の風景版画「近江八景」に感銘を受け、版画制作へと向かった。1918(大正7)年には版元の渡邊庄三郎の協力を得て塩原の三部作を発表し、木版画デビュー。
巴水は現代性を盛り込んだ風景画や美人画、役者絵、花鳥画など多彩なジャンルを展開したが、とりわけ風景画の人気が高く、もっとも多く制作された。彫りと摺りの高度な技術に支えられた作品群は国内外で高く評価され、主なマーケットであったアメリカでの評判は1930年代半ばに頂点に達している。
本展は、「版画家・巴水、ふるさと東京と旅みやげ」「『旅情詩人』巴水、名声の確立とスランプ」「巴水、新境地を開拓、円熟期へ」の3章構成。生涯に残した600点を越える木版画作品のなかから厳選された約280点が展示される(前期・後期で展示替えあり)。旅に取材した最初の連作『旅みやげ第一集』をはじめ、代表的なシリーズが可能な限りまるごと展示されるのも本展の特長だ。
また木版画作品だけでなく、木版画のもとになった写生帖や木版画制作のプロセスが分かる順序摺、制作に使用した版木、生前の巴水の制作風景を撮影した記録映像などの資料も展示。川瀬巴水の木版画の世界を多角的に紹介する。