草間彌生美術館の初のグループ展、「ZERO IS INFINITY 『ゼロ』と草間彌生」が開幕した(なお3月9日~5月6日は臨時休館)。本展は、60年代に草間がヨーロッパで活動するきっかけとなったアーティスト・ネットワーク「ゼロ」の活動をとりあげ、草間彌生の作品とともに展示することで、両者の活動に光を当てるものだ。
「ゼロ」は、狭義には、1958年にハインツ・マックとオットー・ピーネが立ち上げ、後にギュンター・ユッカーが加わる、ドイツ・デュッセルドルフにて結成されたアーティストグループ「グループ・ゼロ」を指す。しかし、雑誌『ゼロ』の刊行や展覧会を開催する過程で、その活動は多くの作家やグループを巻き込み、ユートピア的な「新しい始まり」を模索する前衛芸術家たちによる、国際的な潮流及びネットワークへと発展した。1957年に渡米し、ニューヨークで活動していた草間は、この「ゼロ」に関連する展覧会に複数回参加。その交流を通じてヨーロッパにおける活動を拡げていった。
本展の1階ギャラリーでは、これまで日本で紹介される機会の少なかった「ゼロ」の作品や展覧会、パフォーマンスを紹介するドキュメンタリー映像「0×0=アート 色彩・絵筆をもたない画家たち」(ヘッセン放送協会、初回放送日:1962年6月27日)を上映。本展のキーとなる「ゼロ」の活動について知ることができる。
2階と3階のギャラリーでは、草間と「ゼロ」の13名の作家による作品23点が展示される。
草間が「ゼロ」の関連展覧会に出品したのは、網目模様を一面に反復させたモノクロームの絵画「無限の網」シリーズや、カバンや衣服の表面にマカロニを貼り付けた立体作品、男根状の突起を無数に貼り付けたソフト・スカルプチュアなどの「集積」シリーズ。それらのシリーズが、展示室の入口の3作品によって紹介される。
同展示室では、草間作品とともに、グループとしての「ゼロ」のメンバーであるハインツ・マック、オットー・ピーネ、ギュンター・ユッカーの作品や、「ゼロ」の表現に強い影響を与えたルーチョ・フォンタナ、イヴ・クラインといった作家の作品を展示。
これらの作品を草間の作品と比較すると、単一的な色彩や、幾何学形の反復、反射素材の使用といった共通する要素が見いだせる。いっぽうで、対象への強迫観念を克服しようと生み出された草間作品との相違も感じることもできるだろう。
4階では世界初公開となる草間の新作《無限なる天国への憧れ》(2020)を展示。本作は、65年にオランダ・ハーグで企画され、天候や経済的問題により実現しなかったグループ展「海の上のゼロ」に出品予定だった、六角形のミラールーム作品《愛はとこしえ》と同シリーズの作品だ。暗室のなかのカラフルな電球が明滅する部屋を覗きこむと、合わせ鏡がつくり出した無限に広がる空間を体験することができる。
本展に出品されているクリスチャン・メーゲルトの《鏡の壁》(1961/2020)や《12枚の鏡のモービル》(1964/2020)も鏡を使用した環境型の作品。《無限なる天国への憧れ》と鑑賞体験を比較することで、新たな発見があるかもしれない。
5階は、イヴ・クライン、ピエロ・マンゾーニ、ハインツ・マック、といった「ゼロ」に関連する作家のパフォーマンス映像やドキュメンタリー、当時の写真・書簡・掲載誌などのスライドを、草間の資料映像とともに上映。
さらに、展示室から屋外に出ると、66年の第33回ヴェネチア・ビエンナーレで初めて発表された、地面にいくつも並んだミラーボールにより構成される草間彌生《ナルシスの庭》(1966/2020)を見ることができる。
10年に満たない活動期間のなかで様々な芸術的実験を行った「ゼロ」。60年代、ともに既存の枠組みを超える新たな美術を目指した「ゼロ」と草間、それぞれの実践に光を当てた示唆に富んだ展覧会となっている。