映像、インスタレーション、パフォーマンスの手法を用いて、ワールドシネマと大衆文化を語り直してきたミン・ウォンの個展「偽娘恥辱㊙︎部屋」が、東京・西浅草のASAKUSAで開催中だ。会期は12月29日まで。
ミン・ウォンは1971年シンガポール生まれ。多彩な表現を通じて、ワールドシネマと大衆文化について言及し、映画言語や社会構造、アイデンティティ、内省といったいくつもの層を作品のなかで重ね上げるアーティストだ。現在はベルリンを拠点に精力的な活動を行っている。
これまでUCCAユーレンス現代美術センターや資生堂ギャラリー、原美術館などで個展を開催してきたほか、シドニー・ビエンナーレ、釜山ビエンナーレをはじめとする数々の国際展にも参加。2009年には、第53回ヴェネチア・ビエンナーレのシンガポール館代表として個展「ライフ・オブ・イミテーション」を開催し、審査員特別表彰を受賞した。
自身が俳優となり、不完全に翻訳された再演を行うことで、ジェンダー意識がいかにして構築・再生産され、循環し、表象のポリティクスに流れ込んでいくのかを考察するミン・ウォン。今回、東京で制作された最新作は、1971年から87年まで制作されたポルノ映画「日活ロマンポルノ」を題材としている。
本作でミン・ウォンは、性愛を描いた大胆なストーリーと演出で知られる「日活ロマンポルノ」より、神代辰巳監督作品 『赫い髪の女』(1979)で謎多き女を演じる宮下順子、同じく神代監督による『一条さゆり 濡れた欲情』(1972)の勝気なストリッパー役・伊佐山ひろこ、過酷な緊縛シーンをこなし、SMの女王と呼ばれた谷ナオミをモチーフとする。この3人の女優を再演することによって、ミン・ウォンは、日本では「男の娘(おとこのこ)」、中国語で「偽娘(ウェイニアン)」と呼ばれる異性装者の存在を照射する。
三者三様の方法に倣って男性視聴者の想像力を掻き立てながら、欲情の対象となったシーンを繰り返す本作。悦楽のクライマックスに向かう男性中心の視線を侵犯する作品構成は、ポルノ映画史が加担した性における男性主導をクィア化するかもしれない。