東京の目黒区美術館は、これまで「線の迷宮〈ラビリンス〉」と題し、線描の魅力と可能性に迫る展覧会をシリーズで展開してきた。現在その第3回目として、画家・齋藤芽生(さいとう・めお)の個展「線の迷宮〈ラビリンス〉Ⅲ 齋藤芽生とフローラの神殿」が開催されている。会期は12月1日まで。
齋藤は1973年東京都生まれ。現在も東京を拠点に活動を行い、東京藝術大学絵画科では准教授を務めている。数多くの個展を開催してきたほか、「アーティストファイル2009―現代の作家たち」(国立新美術館、2009)や「祝祭と祈りのテキスタイル」(熊本市現代美術館、2010)といったグループ展にも参加するなど注目を集めてきた。主な出版物に、作品集『徒花図鑑』(芸術新聞社、2011)、『四畳半みくじ』(芸術新聞社、2014)、絵本『カステラ、カステラ』(福音館書店、2013)などがある。
活動初期の《毒花図鑑》(1993)や《日本花色考》(1995)では、思春期の心理を花に託し、図鑑のかたちで表現。齋藤はそんな活動初期を振り返り「美術と文学の間で揺れ動いていた若い私にとって、博物学への興味は新鮮なビジョンをもたらした。1枚で独立した絵画ではなく、言葉と複数の絵からなる博物図鑑として、物事の体系を表現するアイデアを得たのだ。観察対象は外界の自然物ではなく、『表立って語られることのない密やかな人生の縮図』だった」とコメントしている。
やがて齋藤は、花のモチーフから離れ、自身が幼少期を過ごした団地での記憶をもとに、箱型の団地の窓を描く一連のシリーズに着手。《晒野団地四畳半詣(さらしのだんちよじょうはんもうで)》(2006)では、窓枠の奥に人々の気配を描いていたが、近年では、窓の内の居住者への観察眼を外へ向け、日本各地で旅を重ねながらイメージを収集しているという。
本展では、卒業制作を含む初期作から近作まで約100点を回顧展的にたどるとともに、植物図鑑の至宝とされる《フローラの神殿》を同時に展覧。図鑑のように複数の絵画と言葉で社会を描いてきた齋藤の魅力に迫る。