岡﨑乾二郎監修「坂田一男 捲土重来」展が東京ステーションギャラリーで開催。画業の全貌から見る20世紀絵画表現の問題とは?

キュビスム以降の抽象絵画の展開を核心で理解し、その可能性を究極まで推し進めた画家・坂田一男。その全貌に迫る展覧会「坂田一男 捲土重来」が、東京ステーションギャラリーで開催される。監修を務めるのは、造形作家で研究者の岡﨑乾二郎。会期は12月7日〜2020年1月26日。

坂田一男 静物II 1934 大原美術館蔵

 日本では岸田劉生の画業がピークに達し、「マヴォ」をはじめとする大正アヴァンギャルドがしのぎを削っていた1920年代、パリの新たな芸術潮流のなかで勇躍するひとりの日本人画家がいた。それが画家・坂田一男(1889~1956)である。

 当初医者を志したが、中学卒業後に画家の道を目指すようになった坂田。1921年にフランスに渡り、フェルナン・レジェに師事した後助手を務める。滞在中は複数のサロンの会員となり、国際展への参加やギャラリーでの大規模な個展の開催など、第一線で活躍。33年の帰国後は岡山・倉敷のアトリエで生涯制作を行い、49年には前衛美術集団「アヴァンギャルド岡山(A.G.O)」を主宰して後進の育成に務めた。

坂田一男 キュビスム的人物像 1925 岡山県立美術館蔵

 坂田の仕事は岡山以外で大きく紹介されることはほとんどなく、忘却されていたといっても過言ではない。その全貌を、造形作家であり近代美術史研究者の岡﨑乾二郎監修のもと読み解く展覧会「坂田一男 捲土重来」が、東京ステーションギャラリーで開催される。会期は12月7日~2020年1月26日。

坂田一男 コンポジションA 1948 個人蔵

 その近著『抽象の力』のなかで坂田について、通常は「背景」とみなされるような領域にボリュームを与え、それをさらに複数化して同時に折りたたむという操作を実践した画家だと語る岡﨑。本展ではその複雑な空間操作を解析すべく、坂田の帰国後から戦後にかけての仕事の展開と、坂田と同世代の画家や作家たちを組み合わせた比較展示を行う。

 坂田以外の出展作家はフェルナン・レジェ、坂本繁二郎、ル・コルビュジエ、ジョルジオ・モランディ、ジャスパー・ジョーンズ、若林奮など。約200点の作品で、20世紀絵画表現の問題群を読み解いていく。

坂田一男 コンポジションのエスキース 制作年不詳 個人蔵

 加えて本展では、展覧会タイトルの「捲土重来」と重なるような作品も紹介。坂田のアトリエは海抜の低い干拓地にあり、1944年・54年の2度にわたって水害に遭ったため、多数の作品が破損し、あるいは失われた。まるで双子のようにも見える2点の「静物」は水害の跡を物語るが、そこには冠水の被害を創作に活かし、破壊を復活に転化させる画家の眼差しを見ることができる。

 これら坂田や多様な画家の作品で、その仕事に迫る初の機会となる本展。絵画に込められた潜勢力、そして「格納された世界のすべて、風景のすべて」とはなんなのか。その全貌に期待が高まる。

坂田一男 構成 1946 宇フォーラム美術館蔵

編集部

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