田名網敬一は1936年生まれ、58年武蔵野美術学校(現・武蔵野美術大学)卒業。60年代からグラフィックデザイナー、映像作家、アーティストとして、その境界を横断しながら創作活動を展開してきた。今年3月には、スポーツファッションブランド・アディダスとのコラボレーションによる「adicolor by Tanaami」コレクションを発表。それに先駆けた新作個展「Tanaami x adidas Originals」もNANZUKAで開催された。
川崎市市民ミュージアムは、そんな田名網作品のなかでも70年代後半から90年代にかけて制作されたものを中心に収集。今回、そこから約110点を紹介する展覧会「コレクション展 田名網敬一の楽園 空中回廊」が開催される。
田名網は80年代後半から90年代にかけて、それまで探求してきたポップなスタイルを脱却。「生と死」や「夢・記憶」をテーマに、幼少期の戦争の記憶や大病を患った際に見た幻覚に着想を得て、奇異なモチーフを極彩色で描くようになる。当時の作品群には、松や鶴といった吉祥的なモチーフと、それに相反するような不穏な色彩や構図が同居し混在している。
本展では、田名網の私的な記憶や夢に登場するモチーフが描かれた連作《夢・四十九夜》(1986)や、「ハリウッド・スターダスト」シリーズ(1986)から全18点を展示。作品に散りばめられた田名網の「原風景」とも言えるイメージと、現在の活動に通じるコラージュの技法を見ることができる。
加えて、ポスター・版画作品や一連の立体作品のほか、グラフィックの製版技術などを用いて制作された実験映像作品から3点が全編公開。本展では、田名網が見せる残酷ながらも美しい「楽園」を体験することができるだろう。