科学では説明できない不可思議な現象を引き起こし、人間に恐怖や不安を与える「妖怪」。しかし同時に、自然や身近なものに宿る神秘的な存在として、ときには様々な恩恵を与える存在として親しまれてきた。
そんな妖怪を出発点として、人々が恐怖を抱く対象の変遷をたどる展覧会「妖怪/ヒト ファンタジーからリアルへ」が、川崎市市民ミュージアムで開催される。
本展ではまず、様々な妖怪たちの姿を紹介。出版文化が栄えた江戸時代に刊行された鳥山石燕による『画図百鬼夜行』などから、恐ろしくときにユーモラスに描かれてきたその歴史を見ることができる。
また、地獄絵巻に登場する鬼の姿や、江戸や明治時代の浮世絵における社会を風刺する存在としての妖怪の姿も展観。人間の姿を一部残した幽霊や骸骨など、人間と妖怪のあいだに位置する存在の特徴を検証することで、妖怪とヒトの境界を探っていく。
そして最後には「ヒトの怖さ」を、激動の時代を記録した戦争錦絵を中心に紹介。日本では1894年に日清戦争が勃発、その10年後には日露戦争が始まった。錦絵からは、学問として不可思議な現象が解明された後に、殺人や戦争など人間そのものの怖さが強調されていく様を見て取ることができるだろう。
妖怪関連資料や明治の戦争錦絵など、同館のコレクション約100点を中心に人々の「恐怖」の変遷を追う本展。怪談作家・木原浩勝が所蔵する「件(くだん)のミイラ」も特別出展されるほか、会期中にはトークショーやワークショップなど様々なイベントも開催される。