河鍾賢(ハ・ジョンヒョン)は1935年に生まれ、物資にも困窮した60~70年代の韓国における独裁的な政治制度下で、新聞紙や廃材、有刺鉄線などを用いて制作を開始。74年には、モノクロの油絵具を麻布の裏面から押し付け「裏ごし」することであふれ出た絵画表面を、さらに筆でなぞって擦り付ける「接合」シリーズに着手。絵具の持つ物質性や、単なる支持体としてではないキャンバスの可能性を追求してきた。
本展で河は、鮮やかな色彩を用いて描かれた新作・近作から構成される「接合」シリーズを発表。また、白い絵具で描かれた表面を火にかざし、白から焦げた灰色へと変化したところを水平・垂直に削り出した作品も展示される。
そして、河の作品に加えて本展で重要なのが、韓国の「単色画」と呼ばれる動向に関する検証だ。
河をはじめ、李禹煥(リ・ウファン)や朴栖甫(パク・ソボ)といった同時代の韓国の作家たちは「単色画」の動向の担い手として知られる。「単色画」の作家たちは、文字通りモノクロームを用いて表現を抑え、素材を操りながら油画と水墨画、彫刻と絵画などの境界を曖昧にする作品を生み出してきた。
両動向の中心人物であった李を起点に、「もの派」からの影響も指摘される「単色画」の作家たち。河も李の哲学や実践に大きな影響を受け、初期にはギャラリーの両壁に渡したロープの中央に木製の梁を置いた、サイトスペシフィックな作品を発表した。
近年、「単⾊のリズム:韓国の抽象」(東京オペラシティアートギャラリー、2017)や「Korean Abstract Art: Kim Whanki and Dansaekhwa」(宝⿓美術館、上海、2018)といった展覧会が開催されるなど、アジアでその検証が続く「単色画」。その系譜をたどるとともに、河のさらに新しい試みにも注目したい。