ヒュー・スコット=ダグラスは1988年イギリス・ケンブリッジ生まれのアーティスト。現在はニューヨークを拠点に活動を行っている。
近年では、栃木県立美術館やKaikai Kiki Gallery、ザ・アーツ大学ローゼンワルド=ウルフギャラリー(フィラデルフィア)で個展を開催してきたスコット=ダグラス。そのほか、マサチューセッツ現代美術館、エリ&エディス・ブロード美術館で行われたグループ展にも参加するなど勢力的に活動している。
自己言及的、あるいは様々な外部の事象をテーマに、ハイテクとアナログの手法を用いた作品を生み出してきたスコット=ダグラス。その作品は、ダラス美術館、ゲーツ・コレクション近代美術ギャラリー、サンフランシスコ現代美術館などに所蔵されている。
今回、東京・原宿のBLUM & POEで開催される個展「Thank You Thank You Thank You Thank You Thank You Thank You」は、自然環境や将来に対する懸念といった感情を軽減し、否定する集団的イマジネーションが存在する場に人間が与えるインパクトをテーマにした2点の新作シリーズ「Natural History」「Forms of Nature」を中心に構成される。
「Natural History」と題された新作群は、ニューヨークのアメリカ自然史博物館の大広間にある「マイルステイン家展示室の海洋生物」で展示されている野生動物のジオラマの外観をとらえたデジタル写真を転写した絵画作品。海洋のリアリティとは反対に、ディスプレイ化されたプラスチック製品によって演出された同館の展示環境は、人間が影響をおよぼす領域外に存在するものであり、理想化され、固定化された生態系のイメージの刷り込みを鑑賞者に与える。
スコット=ダグラスは、権威的な博物館にて公開されるその展示室を「気楽に消費されるカウンター・ナラティヴ」として、海洋環境が直面する現実問題の先送りや反論的な意見を人々に表明することを試みている。
いっぽうの「Forms of Nature」シリーズは、『ウォール・ストリート・ジャーナル』誌から抜き取ったイメージ群と、パウル・ヴォルフが小型のライカでヴォルフの故郷・ドイツのミュールーズに自生する植物を撮影した写真集『Forms of Life: Botanical Photo Studies』を組み合わせたコラージュシリーズだ。
同シリーズでスコット=ダグラスは、繊細に細部を捉えた白黒のコンポジションと、『ウォール・ストリート・ジャーナル』誌のデザイン戦略という要素を組み合わせてモンタージュを行っている。出版業界の再興がすでに否定されていた2008年に、広告やラグジュアリーグッズを多く掲載する季刊誌として創刊された歴史あるビジネス誌である同誌の別冊として、この出版物の存在を受け入れるか、それとも滅びるかという不可避的状況を象徴的に示唆したという。