静謐な異界の息吹を感じさせるモチーフと、油絵具の積層・掘削・研磨の繰り返しが生み出す重厚なマチエールを特徴とした作品を制作する平松麻の個展が、東京・代官山のLOKO GALLERYで開催される。
平松は1982年東京都生まれ。東京を中心に個展を開くなどの活動をしながら、近年では村上春樹のアンデルセン文学賞受賞の講演テキスト(『MONKEY Vol.11』SWITCH PUBLISHING、2017)や穂村弘の書籍『きっとあの人は眠っているんだよ』(河出書房新社、2017)への挿画も手がけるなど、多方面から注目を集めている作家だ。
これまで一貫して、自らの体内にある広大で荒涼とした土地の姿を絵画に落とし込んできた平松は、「現実の世界を凝視していると、その世界の存在が揺らぎ、別の土地の姿が立ち現れる瞬間が訪れる」と語り、その重要な瞬間に現れるもののことを「気配」と呼ぶという。たびたび画中で取り上げてきた「雲」という非固形の存在などは、その揺らぎの気配を象徴するものだといえるだろう。
これまでの平松は現実世界と自らの内側に広がる世界とを別の領域としてとらえてきたが、近年ではその2つの境目が溶け合うようになってきたとも語っている。そしてそういった相反するさまざまな要素を制作の中で等しく扱うことは、平松が抱く大きなテーマのひとつでもあるという。
本展は、心象風景への沈潜と絵具との格闘によって自己の絵画を探求する平松麻の、最新の作品群を見ることができる展覧会だ。