新たなオークション会社「東西ニューアート」が誕生。キーマンに聞く、目指すオークションのかたちと次世代へつなぐ責任

2025年8月、新たなオークション会社が誕生した。「競争」ではなく「共創」の姿勢を打ち出すその背景にはどのような意図があるのか、専務取締役の朝倉卓也氏、営業部長兼西洋担当の工藤綾女氏、東洋美術担当の後藤美和氏、ジュエリー担当の鈴木かほる氏の、キーパーソン4名に話を聞いた。

聞き手・文=塚田萌菜美 撮影=畠中綾

左から東西ニューアートの朝倉卓也氏(専務取締役)、工藤綾女氏(営業部長兼西洋担当の)、後藤美和氏(東洋美術担当)、鈴木かほる氏(ジュエリー担当)

新会社について

──このたびは新会社「東西ニューアート」設立、誠におめでとうございます。この新たな挑戦はどのようなビジョンから生まれたのでしょうか。まずは設立のきっかけや、背景にあるストーリーを教えて下さい。

朝倉 もともと、グループ会社に1984年に創業した「エストウェストオークションズ」という公開型オークションを定期的に行う会社があったのですが、新会社「東西ニューアート」はその兄弟会社という立ち位置で設立されました。「エストウェスト」という名前は、フランス語で東と西を意味し、西洋とアジアをつなぐ懸け橋になるようなオークション会社を目指すという意味合いで命名されています。「東西ニューアート」という新たな名前は、旧来の名前が持っていた意味を引き継いで、国際的な懸け橋になるようなオークションを開催していきたいという思いが込められています。

 いっぽうで、近年の日本美術市場においては、従来に比べ価格水準が下落傾向にあることに強い危機感を抱いており、この点も装いを新たにする動機となりました。現在の日本美術のマーケットを考えると、研究者や専門的に売買しているセカンダリーのギャラリーの方々と協力する必要があると考えています。日本美術の現状や、今後について同じような思いを共有する方々と力を合わせて一緒に日本美術マーケットを盛り上げていかなければいけないと考えています。そのためにまずは国内の協力者を募る事が重要だと考えています。だからこそ「競争」ではなく、「共創」というメッセージを、「東西」というあえて漢字の名前に託しました。

朝倉卓也氏

──オークションハウスは、作品の仲介販売をしているだけと思われがちなところではありますが、じつは裏側にいる人たちは「どうすれば次世代に良いかたちで美術品をつないでいけるのか」「いまは光が当たっていない作品に注目を集めて残していくか」を真剣に考えていらっしゃる方が多いですよね。そのためにも、東西ニューアートは新たにどのような挑戦をするのでしょうか。

朝倉 これまでは公開型のオークションを年4回から5回ほど、東京で開催していましたが、今後は公開型オークションを年2回と、加えてカタログを作成しない非公開型のオークションを数回ほど開催していく予定を立てています。実は会社名からオークションの文字を外しているのですが、日本の美術市場に何かしらの良い影響を与えることができるならば、オークション以外のこともやっていきたいと考えているからです。

──これまで非公開のオークションといえば、画商の組合などで開催されている「交換会」「業者会」というものでした。方式としてはカタログや下見会がないオークション形式で、出品される作品と価格が事前に提示されず、作品が壇上で梱包から出された瞬間に始まる競りです。そうした交換会と公開オークションの中間を狙いに行くということでしょうか。そうするとこれまでにはない、セカンダリー業界に風穴を空けにいくような試みですね

朝倉 目指したいのは、作品をお預かりしてから換金までの時間や作品が落札者のお手元に届くまでの日数が短縮されたスピード感のある仕組みです。今まで行ってきた公開型オークションはカタログを作成するため作品をお預かりしてから換金までに数ヶ月を要しています。そのため非公開オークションではカタログを作成せずに出品者と落札者間の代金と作品の流通を出来るだけ早くしたいと考えています。とはいえ一般の方が事前のカタログ等の情報なしに目の前に並べられた作品を瞬時に見て、数秒のうちに入札金額を決めて競ることができるのか、というと難しいでしょう。なので、カタログは作成しませんが下見会は行うなど、一般の方が参加をしやすいモデルを目指しています。様々な問題が出てくるかとは思いますが、回数を重ねる度に課題をクリアしていく構造を模索しています。業界全体にとって将来的にプラスとなる仕事ができたらと思います。  

──公開型のオークションでは、会場に来られない人のために入札方法として書面、電話、オンラインが用意されていると思いますが、非公開オークションの場合はどのようになるのでしょうか。招待された方には、公開型と同様の機能を提供するのでしょうか? 特に海外からの入札に響く部分だと思われますが。

朝倉 事前に既存のようなオンラインカタログをつくるとなると公開オークションと変わらなくなってしまいますので、異なる方法を模索中です。全てではなくても画像が確認できるシステムのようなものは必要だと思いますが、競りまでのスピードがかなり速いので折衷案を探りつつ、また海外を含め遠隔の方々も参加できるようなシステムにはしたいと思っています。

編集部