名だたる企業はなぜ「Art Collaboration Kyoto」とコラボレーションするのか?

秋の京都を彩る国際アートフェア「Art Collaboration Kyoto(ACK)」が10月27日〜10月30日まで(27日は関係者・招待者のみ)、国立京都国際会館で開催される。「コラボレーション」をキーワードに、国内と海外、行政と民間、美術とその他の領域をつなぐプラットフォームとして2021年にスタートし、第3回目を迎える今年。そのなかでフェアを支える様々な企業にフォーカスし、企業目線でフェアとコラボレーションする意義を探る。

聞き手・文=上條桂子

Art Collaboration Kyoto 2022 メイン会場俯瞰Courtesy of ACK, photo by Kotaro Tanaka

 ACKとは、Art Collaboration Kyotoの略称であり、「コラボレーション」が活動の中心にある。ACKの中には様々なコラボレーションの形態が存在するが、「企業」とのコラボレーションについて記す。ACKは企業とどのような関係づくりをし、コラボレーションを展開しているのだろうか。まずは、ACKの共同ディレクターを努めるカルチャー・ヴィジョン・ジャパンの深井厚志に、ACKの企業とのコラボレーションについて伺った。

「コラボは企業に合わせたカスタムメイド」(ACK共同ディレクター・深井厚志)

  「ACKが行っているコラボレーションはとても多様です。国内外のアートギャラリー、行政、企業、アートとその他の領域といったように、ACKを取り巻くステイクホルダーは多岐に渡ります。ACKは立ち上げ当初から、そうした多彩なステイクホルダーを様々な方法でつなぎ、多様な価値を生み出すプラットフォームでありたい、と考えながら活動しています。企業とのコラボレーションについてお話しますと、一般的にはアートバーゼルのスポンサーであるUBSがいい例ですが、アートフェアに集まる富裕層をターゲットにしたビジネスを展開している企業がスポンサーになることが多く見受けられます。もちろんACKにもそうした側面はありますが、それはあくまで一側面であって、アートを介した新たな付加価値を企業の皆さんと一緒に考えていく、そんなイメージで企業とコラボレーションをしています」。

 「また、協賛の形も非常に様々。ACKの理念にご賛同くださりフェア全体に協賛いただいている企業もありますし、個別の展覧会をアーティストと一緒につくり上げていく企業、企業の物品やサービスを提供いただきフェアのお客様にご紹介するケースなど、コラボレーションのかたちはすべて個別の企業に合わせたカスタムメイドとなっています。そうした個別の提案ができるのも、ACKの企業コラボレーション担当には、高いアートの専門性と企業のニーズを汲み取る力を兼ね備えた、アートとビジネス、両面から話ができるスペシャリストがいて、丁寧に企業と対話を積み上げていっているからなのだと思います。ACKでは、従来のアートフェアにはない価値提供ができますし、幅広い業種の企業に参画いただいていることは、結果的に新たなACKの価値創出にもなる。年々そうやってオーガニックに輪を広げていくのが、ACKというプラットフォームなのだと感じています」

Art Collaboration Kyoto 2021 メイン会場俯瞰
Courtesy of ACK, photo by Nobutaka Omote

 次に、ACKとコラボレーションをしている企業からのコメントを掲載する。

「アートは未来の家電に更なる魅力をもたらす」(株式会社エディオン 代表取締役会長兼社長執行役員・久保允誉)

株式会社エディオン代表取締役会長兼社長執行役員・久保允誉

 ACKには昨年に引き続きリードパートナーとして協賛しています。当社では社会貢献活動の一環としてパラリンアートという障がいのある方々のアート活動支援はしていますが、家電を扱う小売業という業態からしましても現代アートと親和性があるとは考えていませんでした。しかし、縁あってACKの会場を訪ねて様々な作品を鑑賞し、ギャラリーやアーティストの方と対話した際、非常に刺激を受けましたし、同時に様々なビジネスのアイデアが浮かんできました。ひょっとしたら、現代アートとコラボレーションすることで、未来の家電に更なる魅力をもたらすきっかけになるのではないか、と感じました。

 アートは、国籍・職種・専門分野を超えた共通の話題として、とても有効なテーマだと感じています。例えばACK内覧会の後、当社でご招待したお客様との意見交換の場として、懇親会を催しましたが、小売業以外の分野の方々と交流を持つことができましたし、ACKは国際的なアートフェアということもあり、海外のメーカーや商社との、事業における新たな人的基盤作りのきっかけにもなりました。また、お客様にもエディオンの新たな一面を感じていただけると期待しています。

 今年は、インターネットアートの第一人者であるラファエル・ローゼンダールの展示を準備しています。インターネットやAIは、私たちのビジネスにも非常に密接にかかわってきます。私も5年ほど前から小売りとメタバースの関係に興味があり、インターネット上でいかにリアルなコミュニケーションがとれるかは課題でもあります。ローゼンダール氏のような実験的な試みをしているアーティストや、様々な作品から社員たちも刺激を受けて欲しいと考えています。

 ACKは今年3回目ということですが、まずは継続が重要だと思います。当社の主力地域である大阪と名古屋の中間に位置する京都は戦略地域でもあります。ぜひ今後も回を重ねていって、新たなコラボレーションを生み出していっていただければと思います。そして、様々な企業や人々とのネットワークから、新たなビジネスや価値を生み出していきたいと思います。

Installation view from Rafaël Rozendaal: Color Code Communication at Museum Folkwang, Essen, 2023
Photo by Gert Jan van Rooij

「未来のパートナーと出会える場」(三菱地所株式会社 エリアマネジメント企画部マネージャー・森晃子)

 ACKには初年度からリードパートナーとして参加しております。今年は初の試みとして、大手町・丸の内・有楽町(大丸有)エリアで働くビジネスパーソンを対象としたACKアートツアーを実施します。秋の京都で行われる、現代アートの最前線を体感できるアートイベントとして、普段からアートを楽しんでいる方のみならず、募集時点で初めてアートフェアにご参加いただく方々からも大きな反響がありました。大丸有エリアの方々にも、当社とACKの関わりについて知っていただく機会にできればと考えています。

 当社は、時代をリードする豊かな都市の実現を目指して、アートとの連携にも取り組んできました。丸の内仲通りにパブリックアートを配する「丸の内ストリートギャラリー」は1972年から、若手アーティストの発掘・育成を行う「アートアワードトーキョー丸の内」は2007年から、「藝大アーツイン丸の内」は2008年からスタートし継続している事業です。2010年には主に近代美術の展覧会を開催する三菱一号館美術館が開館しました(2024年秋まで休館中)。そして近年、とくに有楽町では、その取り組みを「アーティストがいる街」へと領域を拡大し、アーティストとの共創を推進しながら「CADAN 有楽町」(2023年10月まで)や「有楽町アートアーバニズムYAU」というプロジェクトを行い、ビジネス街にアートが交わることで、どのような変化が起こるのか、検証を行いながら、コミュニティを育んでいます。

 こうしたアートを原動力とした街づくりには、アーティストを始め、キュレーターやアートマネージャー、アートコーディネーターなど、新しい実践に前向きに協働してくださるパートナーが何より重要になってくると考えています。ACKのような、グローバルなアートコミュニティのプラットフォームは、未来のパートナーと出会える場でありますし、私たちの取り組みについても知っていただく機会でもあります。

 ACKには京都を発信地に、今後も国内外のアートに関わる最前線で活躍する人々をつなぐプラットフォームとして、そして東京との連携にも期待をしています。

YAUの活動風景 撮影=黑田菜月

「よりユニークで文化的な価値が創造できる」(株式会社大丸松坂屋百貨店 ARToVILLA プロジェクトマネージャー・村田俊介)

村田俊介(株式会社大丸松坂屋百貨店 ARToVILLA プロジェクト・マネージャー)

 ACKのスペシャルプログラムにて「Ladder Project(ラダー・プロジェクト)」という展示を開催します。当社が次世代のアーティストと世界をつなぐ架け橋として始動した、アーティスト育成プロジェクトとなります。第一弾となる今年は、国立京都国際会館でスクリプカリウ落合安奈、四条河原町 にあるBijuuでは玉山拓郎の新作を展示いたします。

 百貨店という業態にもAIによる効率化の波は押し寄せています。ですが、そんな時代だからこそ、さらに感情的・情緒的な価値を体感できる百貨店を目指したい。ACKのような国際的アートフェアにかかわり、同じ志を持つアーティストや企業とつながることで、よりユニークで文化的な価値が創造できるのではないかと期待しています。さらに、アートは社内のインナーブランディングをする上でも高い効果があると考えています。当社がかかわるアートプロジェクトに興味を持ち、入社を希望する社員も増えてきました。

 ACKは国際性が高いことはもちろんですが、主催メンバーや参画パートナー、ギャラリーの志や熱量が高いところも魅力だと感じてます。一緒になって良い展示を創り上げていくプロセスを楽しませていただいております。今後も、アーティストやギャラリー、企業とのハブとなり、文化と経済との好循環を創っていくきっかけを生み出していただければと思います。

スクリプカリウ落合安奈 ©️Kotetsu Nakazato
玉山拓郎
撮影=大町 晃平 (W)、courtesy of HILLS LIFE Daily

「『伝統と革新』に通ずる」(株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 経営企画部部長チーフ・コーポレートブランディング・オフィサー・飾森亜樹子)

株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 経営企画部部長チーフ・コーポレートブランディング・オフィサー・飾森亜樹子

 2023年8月から始動した当社の社会貢献活動「MUFG工芸プロジェクト」の一環として、ACKに協賛しています。工芸は長い歴史がありますが、伝統を守るには時代に応じた革新が欠かせず、革新があったからこそ現代まで受け継がれています。MUFGでは、日本という国をかたちづくってきた「ものづくり」の根底にある工芸技術の継承と発展を支援したいと考え、本プロジェクトを発足しました。現代アートが一堂に会するACKにおいて、いまに生きる工芸の魅力を発信するべく、MUFG工芸プロジェクトのテーマである「伝統と革新」を感じていただける作品展示やトークイベントを開催する予定です。

 ACKには海外のギャラリーも多く出展されることから、日本の工芸を海外の方にも知っていただく機会、つくり手の方にとっては海外ギャラリーに認められ活動の場を広げる機会となればと思っています。

 「コラボレーション」がテーマになっているところが、ACKの魅力だと思います。異分野とつなぐ、日本と海外をつなぐなど、何かと何かをつなぐことで新しい価値が生み出されるというのは、まさにMUFG工芸プロジェクトがテーマとしている「伝統と革新」に通ずるものがあると考えています。

 金融には様々なものを「つなぐ」力があります。遠隔地をつなぐ、ファイナンスを必要とする事業者と余資を運用する預金者や投資家をつなぐ、事業や資産を次世代につなぐなど、金融サービスはいずれもなにかをつなぐ機能を備えています。当社は金融機関としてこうした強みを生かし、つくり手と使い手をつなぐ、産業の現場と若手をつなぐ、工芸を世界につなぐなど、多角的な支援ができるのではないかと思っています。

 ACKを通じて、日本の工芸が様々な国の様々な分野とコラボレーションし、新しいものや価値を生み出すきっかけとなることを期待しています。そしてそれによって、当社のパーパスである「世界が進む力になる」を実現できればと考えています。

 ACKのスペシャルプログラム概要はウェブサイトに詳細が掲載されている。しかし、ACKが行う企業とのコラボレーションは展示など表立って名前が出てくるものもあれば、様々なプログラムをサポートする企業、物品協賛という形で参加する企業もある。ぜひACKの会場で、企業がどのような関わりをしているのかご覧いただきたい。

編集部

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